明日はまだ何もない明日(スンミ) 66
不安そうにグミのお見送りに来たスンミとは対照的に、グミはいつも以上に張り切っていた。
「ヒョンジャ君、スンミをよろしくね。」
「はい、こちらこそおばあ様にお会い出来てとてもよかったです。」
グミの事を何も知らないヒョンジャにしたら、とても気さくで明るく若々しいスンミの祖母に親しみを感じた。
「いいおばあさんだね、若々しくて行動的で。」
「そこがアッパともめる原因なんだけど・・・・・・」
「もめる?」
「私は気にしていないけど、アッパは自分のペースを乱されるのが嫌いなの。」
言えないよね、ヒョンジャに自分の家の事は。
ちょっと行き過ぎかなと思うけど、おばあちゃんの気持ちも判るから。
オンマが言っていたものね『嬉しい事や楽しい事は、みんなに広めるのがおばあちゃんの楽しみ』だって。
来週は忙しい。
復学の手続きに、ペアリングの私の物だけをサイズ直しして、ヒョンジャのご両親と初顔合わせをして、形だけの両家の顔合わせ。
結婚をするのは私が大学を出て、ヒョンジャの研修期間が過ぎて落ち着いた頃。
半年前までは結婚なんて出来ないと思っていた。
結婚が出来ても、何も出来ない私は相手を不幸にすると思っていたから。
「じゃ、オレは仕事に戻るから。」
「ゴメンね、おばあちゃんが呼び止めたから遅くなっちゃったね。」
「いや、大丈夫だよ。所長が了解しているから。」
「私は草を取りが終ったら、今日の仕事は終わりよ。キム先生の部屋で夕食を作って待っているね。」
どこにでもいる普通のカップルの様に、笑顔で手を振ってお互いの仕事のために分かれる光景だが、半年前のスンミは妻子ある男性との恋に悩んでいた。
身体が弱くて学校も休みがちで友人が少なくて、話をするのが出来る人は家族だけ。
妻子ある男性との恋で精神的に疲れていたスンミが、この静養所に来たのはヒョンジャとの出会いの為ばかりではない事は判っている。
父があのペク・スンジョであるから、ここでこんな風に今までの自分と違う考えをする事が出来るようになった。
土を掘り起こした時に遭遇したミミズに驚いたり、手袋をして土を触るどころか土の匂いさえも知らなかった。
畑を指導してくれる指導員から、泥の付いたの野菜のおいしさについて話を聞きながら、収穫した野菜を籠に綺麗に収めた。
「来週はスンミちゃんはソウルに戻るんだってね。」
「ええ、すみません。毎日何も知らない私に色々と教えてくださっているのに。戻って来たら忘れてしまいそうです。」
「畑作業というのは、一度で覚えるものではないよ。天候などの環境で、その時その時の状況で臨機応変に対応しないとね。この野菜も持って行きなさい、スンミちゃんが作った物だから。」
のどかな静養所のこの雰囲気は、まさか自分がペク家に戻る時に何かが起こっているとは思いもよらないだろう。
あのファン・グミがまた暴走をして、ペク・スンジョともめる事を知っていたらスンミはヒョンジャとの事をきっと隠していたはず。
「ただいま。」
「お母さん、お帰りなさい。すごい荷物ですね。」
「フフ・・・・色々と必要書類があったし、いい撮影も出来たの。それに本業とは別にまた仕事が出来てね・・・スンジョは書斎かしら?」
その撮影が何なのか、ハニは見当もつかなかったし今まで撮影について聞いた事がなかった。
「ええ、今からコーヒーを持って行こうと。」
「それじゃあ・・私の分も一緒に持って来てくれるかしら?ハニちゃんとスンジョに話がしたくて。」
「すぐに用意しますね。」
状況判断がいまだに出来ないハニは、グミから渡されたケーキの箱を受け取り、何も気にしないでグミの分のコーヒーを用意した。
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