明日はまだ何もない明日(スンミ) 74
髪の毛を綺麗に整え、ほんの少しだけお化粧をしてみた。
いつもはお化粧もあまりしていないけど、今日はヒョンジャの御両親に会うために身だしなみ程度に口紅を付けた。
静養所でユッタリとした時間を過ごしていたから、スンミの頬はふっくらとして少しだけ陽に焼けていた。
―――― コンコン・・・・
「準備は出来た?」
ハニがドアの外からスンミに声を掛けると、急に心臓がドキドキとしているのか胸に手を当てていた。
「ねぇオンマ・・・・これでいいかな?」
洋服選びや人に会う事にこれほど緊張はした事はないが、初めての事に印象をよくしたいと思った。
「このワンピース、肌が陽に焼けちゃったから似合うかな?キム先生のご両親に気に入ってもらえるといいけど。」
スンミに似合うと言ってスンジョが誕生日に買って来た薄いピンクのワンピース。
「アッパが喜ぶね。スンミの為にどんな顔をして選んでいたのか教えてあげたいくらい・・・・」
「大体想像がつくけど・・・・・顔を赤くしていたんでしょ?いつものあの冷たい表情を崩して。」
「そうなの、オンマが写メで記念に・・・って言ったら、店先でふざけるなって・・・その後、人がいるのに大喧嘩。」
「でもオンマ達直ぐに仲直りするじゃない。家に帰って来た時は、アッパがコーヒーと言ったら、水とコーヒー豆をドンッと置いて『ご自分で』『いつまで怒ってるんだ。いい加減にしろよ!』とまた喧嘩したのに、次の日には仲直りしているんだもの、結婚する娘の私に、仲直りの秘訣を教えてもらわないと。」
母と娘の笑い声がドアの外に聞こえた。
背の高いスンハやスンリとは違って、華奢で身体の弱かったスンミが結婚をする年齢になった。
自分がスンミの頃はスンジョに片想いをしていて、婚約者のいたスンジョへの想いに胸が押しつぶされそうで毎日泣いていた。
辛い恋は子供たちにはさせたくないと思っていたが、人の思いは思うようにはならなかった。
憧れと恋を同じだと思っていたスンミが、好きになってはいけない人を好きになっていた。
どうしたらいいのか判らなくて、スンジョには内緒でいろいろ考えていたが、人を好きになるのには理由も時間も関係なかった。
ヒョンジャとは静養所での短い期間にお互いの気持ちが通じ合って、将来を一緒に過ごすと決めた。
そのお膳立てがスンジョであっても、人の心は当人同士しか判らない。
「オンマ?」
「ゴメンね・・・・まだお嫁に行くわけじゃないのに・・・涙が出ちゃった・・・・大丈夫よ、ヒョンジャ君のご両親に気に入ってもらえるわ。スンミはアッパが一番可愛がっていた娘だから。」
「そうかな・・・・でも、私雑誌に載った事があるんだよ。それもいい事じゃなくて悪い事で。」
「大丈夫!アッパもヒョンジャ君も判ってくれるし、ちゃんと説明してくれるから。」
部屋の外でスンジョが二人を呼ぶ声が聞こえた。
可愛い娘の頬に流れている涙を、ハニは優しく指で拭った。
「お待たせ。」
部屋から出て来たスンミは約30年ほど前のハニの様に明るい笑顔だった。
「アッパが買ってくれたワンピースにしたの。結構センスがいいのね、アッパって。」
「着る人を連れて行かなくても、服の色もその人の体温や血流で映える色が判るんだ。」
スンジョらしい言い方に、スンミとハニは顔を見合わせてクスッと笑った。
ヒョンジャの両親よりも先にホテルの部屋に着き、ハニとスンミとスンジョは緊張しながら待っていた。
スンジョは事前にヒョンジャの父親と会って話ていたが、ハニとスンミは初めての顔合わせ。
横に座っていると笑えるくらいに同じ顔で二人は緊張していた。
「オレの隣にいるのはスンミか?」
「「はぁ?」」
「隣にいる人が、妙に子供っぽくてその隣にいる人は急に老け込んで見える。」
意味が解らず一瞬二人はキョトンとしたが、ムッとした顔でハニがスンジョの脇腹を抓った。
「スンジョ君、老眼が酷いの?妻の顔を忘れるなんて!スンジョ君の隣は私で、その隣がスンミよ。21歳の女の子に老け込んでなんて・・・酷いわ。」
「それくらい二人が緊張していたんだ。でも・・どうだ?緊張が溶けただろ?ハニは緊張すると面倒だからな。結婚式で指輪を落としたり・・・・・・」
意地悪く笑うスンジョに、ハニは子供みたいに舌を出した。
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