明日はまだ何もない明日(スンミ) 79
高級ショップが立ち並ぶ本通りを通り過ぎ、大通り公園の入り口近くに来ると、高級感を感じないいくつもの古い店が並んでいた。
「スンミはこんな方には来た事はないだろう?」
「バレエ教室に行く途中で、車で通った事はあるけど、お店には入った事はないわ。キム先生は来た事があるの?」
「大学に通っていた頃は、よくスンリと来たよ。」
「お兄さんと?」
路肩のパーキングに車を停めると、ヒョンジャは大きく伸びをした。
「運転・・・・疲れたのよね・・・私は免許を持っていないから代わる事が出来なくてごめんなさい。」
シートベルトを外したヒョンジャは、助手席のスンミのベルトも外した。
「いや・・・高級ホテルのあの場所で教授の前でお袋が何を仕出かすかと心配したからな。」
ニヤッと笑うヒョンジャの顔にスンミはドキッとした。
その顔から視線を外したスンミは何か言わなければと思っていた。
「バレエ・・・・・教室はもう少し先・・・・・」
「腹が減ったんだ・・・」
「まだ3時よ。さっきホテルでキム先生、あまり食べていなかったから・・・・・」
「緊張をしたんだよ。お袋にハラハラしていたし、昨日の夜から今日の事を考えていたら胃が痛くて。お袋とスンミとスンミのお母さんが、派手にこけたからな。それで、多少の緊張は解けたけどな・・・ほら、降りて。」
ヒョンジャに言われるまま、置いて行かれないように急いで車を降りた。
長い足のヒョンジャの後ろを付いて来るスンミが走らなくてもいいように、少し歩いて手を出した。
「ほら、手を繋いで・・・・・」
包み込むような大きな手が、温かく見えた。
戸惑っていると、ヒョンジャがスンミの手を掴んだ。
「こうして、手を繋がないとオレのペースで歩いてしまう。今まで人に合わせて歩いた事が無いけど、これからはスンミに合わせて歩いて行くよ。」
心臓の音が聞こえてしまわないだろうか、足が浮いているようで自分の足で歩いているようにも感じない。
周囲(まわり)の音も聞こえず、景色も見えずに、もしかしたらこのまま倒れてしまうのかもしれない。
スンミはそんな風に思った。
「おい、大丈夫か?」
ヒョンジャに声を掛けられて、現実に戻るまでに長い時間が掛ったようだが、振り返ると数メートル先に停めた車からここまでわずかな距離だった。
「この店だよ。古くて汚いけど、味噌チゲが美味くて有名なんだ。」
ガラス戸を開けて、中に入ると感じのいいおばあさんが顔を向けた。
「いらっしゃい・・・・・あぁヒョンジャ、久しぶりだね・・・・彼女かい?」
「婚約したんだ・・・おばあさんにオレの婚約者を紹介しようと思って連れて来たんだ。」
おばあさんはスンミの顔を見ると、初めて会ったのに驚いたような顔をした。
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