明日はまだ何もない明日(スンミ) 81
数ヶ月前とは違った感情で、スンミは教室のドアを開けた。
スゥーっと自動ドアが開くと正面にサンがコンクールで受賞した時の写真が掲げられていた。
「まだお稽古の時間・・・・・・・スンミちゃん・・・・・」
受付けの小窓から顔を出した事務員が、スンミの顔を見て急いで部屋から出て来た。
「こんにちわ・・・・・あの・・・・」
「先生?上の倉庫にいるから行ってこればいいのに。奥さんと先生ね、結局別れる事になったみたい・・あ・・・・・」
事務員はスンミの横にいるヒョンジャに気が付き、話を途中で止めた。
「キム・ヒョンジャです。」
背が高くて目鼻立ちのハッキリしたヒョンジャにペコリと頭を下げた。
「こ・・・・婚約したの・・・・」
「えっ・・・・・じゃあ・・・先生の事は・・・」
サンの事を話していけなかったと思った事務員は、気まずそうな顔をしていた。
「大丈夫ですよ。スンミからみんな聞いているから。」
「ここから病院に運ばれて何日かしたら、スンミちゃんのお母さんがいらして私物を持って行ったけど、婚約をした事は何も聞いていなかった。てっきりサン先生が離婚したからスンミちゃんと結婚すると思ってた。」
普通の人ならそう思うだろう。
スンミと付き合っていた事がマスコミで取り上げられたのだから、何も知らない人たちにはそう思われても仕方がない。
「あの後、静養所に行って・・・そこで知り合ったの。」
「お見合いをしたんです。スンミの兄と親友だったので紹介されたんですよ。」
事務員もそれ以上の事は聞かなかったし、二人もそれ以上の事は言わなかった。
スンミも父がヒョンジャと出会うようにしたのは、サンと別れさせるためだとは感ずいていた。
さすがに上の倉庫に行ったらと言ったものの、婚約者のヒョンジャはここの教室とは何の関係もない人。
無関係のヒョンジャを倉庫に案内する事は出来ないから、事務所横の応接間に二人を通した。
応接間には生徒たちの写真が飾られ、スンミが小さい子供たちに教えている写真が何枚壁に貼ってあった。
「なんだか恥ずかしい・・・・・サン先生に、躍っている写真や小さい子供たちに教えている写真を見られるのは。」
「もう、躍らなくても後悔しないか?」
「しない・・・・バレエを始めたのはまだ何も知らない小さい頃。今は畑に出て、土に触れたり採れたての野菜を手で触れたり・・・・その方が、今は一番楽しいの。」
サン先生と付き合っていた時は、人に見つからない様にしないといけないといつもビクビクとしていた。
今は、何の障害もない相手のキム先生とは、人がいる前でもこうして手を繋いでいる事が出来て、恋愛ってこんなに気持ちがワクワクするものだと思わなかった。
「スンミ、待たせて・・・・・」
勢いよく開いたドアからサンが入って来た。
出来るだけ何もなかったように笑って入って来たサンは、スンミの横に座っているヒョンジャに気が付いた。
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