明日はまだ何もない明日(スンミ) 82

サンはスンミだけが来たと思い応接間に気楽な挨拶で入ると、そこに見知らぬ青年がいたことに驚いた。

「元気そうだね。」

「先生も・・・・・あの・・・私の所為ですか?」

サンに椅子に腰かける事を薦められると、二人はサンが座るのを待ってから腰掛けた。

「スンミ、先にその青年を紹介してくれるかな?」

「・・・キム・ヒョンジャ・・・静養所で、私の担当をしてくれていた研修医です。」

どうして、婚約者だと言えないのだろう。

もう先生にはトキメキもないのに、その代わりに後ろめたさを感じる。

判る、キム先生が私の方を見た事が。

なにをキム先生が考えて知りたがっているのかも分かる気がした。

「担当の先生が、スンミに付き添って来てくれたのかな?」

いつもと変わらない聞き出すような話し方は、幼い生徒たちに教える為にしていた事がサンは癖になっていた。

「オレたち婚約しました。彼女の兄の同級生でペク教授の教え子です。」

珍しくヒョンジャは声のトーンを落として、少し大きな声で話した。

「二か月の間で婚約するくらいに親しくなったんだね。」

その言い方は責めるふうでもなく、祝っているようにも聞こえるが、スンミにしたらなんだか責められるようにも感じた。

拳をギュッと握って下を向いているスンミが泣いている事に最初に気が付いたのは、隣に座っているヒョンジャではなく向かい側に座っているサンだった。

「またスンミは泣いて・・・・・ほら・・・涙を拭いて・・・・」

綺麗にアイロンが掛けられたハンカチをスンミに渡した。

そのハンカチはスンミには見覚えがあった。

高校二年になった頃に、ずっと一緒に踊って来た生徒が一人また一人と大学受験の為に辞めて行き、最後にはスンミ一人になった。

この頃には二人は付き合い始めていた。

有名なバレエ団の画集が出るからと、その宣伝の為にブックショップにサンは呼ばれた。

スンミはサンに会いたくて、大学をサボってブックショップに駆け付けた。

その行く途中で、プレゼントとして贈ったそのハンカチをまだ大切に使ってくれていた事に、サンの自分への思いは本当だったのだと気が付いた。

母に片想いしていたから、母と似た自分と付き合っていたのだと思った時は、母を憎くも思っていた。

「さっき、私の所為って言ったけど・・・・聞いたのかな?先生が離婚した事。」

声に出したらきっとヒョンジャが誤解をしてしまうくらいに身体が震えていた。

「ちがうよ。妻がアメリカに行く事になった時に、その話は出ていたんだ。彼女は先生の名声が欲しいだけだったから。雑誌にありもしない事を大袈裟に書かせてしまった。そこまでさせたのは先生かもしれないけれど・・・・・・ゴメン・・・・記事が出たのは知らないよね。」

「読みました・・・・・」

スンミの小さな言葉を聞き、記事の事をスンミの婚約者のヒョンジャは知らないのではないかと思い、記事の内容を話さない方がいいのではないかと思った。

「大丈夫です。スンミとあなたの事は全部知っていますから。」

「そうか・・・・・・君の名誉の為にもあの記事を取り消して欲しいと言いたかったが、そんな事をしたらあの性格だ、逆上して何をしてしまうか判らないからね・・・・・ただひたすら謝ったよ。妻にこんな事をさせるようにしてしまって申しわけないと・・・・やり直したいと申し出たら、彼女の方が離婚を申し出たんだ。結婚する前から、心に別の人がいる事を知っていた。いつか自分を見てくれると思ってたけど、子供の為にアメリカに行って向こうでいろいろ考えて考えを変えた。帰国して離婚をしようと思ったら、君との事を知って・・・・ただ自分の子供とさほど変わらない相手だったから、無性に頭に来てドラマでも見たような内容の記事を、逆上したまま創作して持ち込んでしまったと。」

「離婚の話が進んでいる時に、君のお父さんがここにまた来てくれて、身体が弱くて消極的な娘が人前で踊れるようになった事を考えると、ここでバレエを習ってよかった。ただ、辛い恋愛はさせたくないから年相応の相手と見合いをさせて結婚を考えているって・・・・・・その時は君とスンミは出会っていたんだね。」

サンは知っていた。

スンミがヒョンジャとお見合いをしていたと。

ヒョンジャは、学校や病院で見る教授とまた違う面の父親としてのペク・スンジョの優しさに、これが父親の娘に対する愛情だと知った。

ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

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