明日はまだ何もない明日(スンミ) 83
サンとの再会に、自分の中にあったその思いが今のヒョンジャに対する思いとは違っている事を感じた。
ヒョンジャと並んで教室の外に出ると、最後にちゃんとサンに挨拶をしようと思った。
「先生、長い間お世話になりました。姉に付いて習い始めて18年間とても楽しかったです。小さい生徒たちと混じって初歩から何も知らない子に教える大変さも知る事が出来、この体験をこれから生かしていきます。トゥシューズもレオタードももう着ませんが、先生や一緒にレッスンをした人たちの事は忘れません。」
「ありがとう。受験で止めて行く生徒とは違って長い間いてくれて、舞台を降りるために贈るステージを作ってあげられなくて悪い事をしたよ。」
「それは望んでいません。私は一曲を踊りきる体力がないから・・・・・・」
「彼と、幸せになるんだよ。先生は君の幸せを祈るから。」
サンの差し出された手は、もう会う事のないスンミへの最後の挨拶。
その手を遠慮がちにスンミは触れた。
このサンの手のサポートで踊りリフトされ、教室以外の時はその手を繋いで歩いた。
スンミの柔らかな髪を整えるように梳いたり、体調を気遣って頬を触れたりしてくれた。
「夕方のレッスン曲を選ばないといけないから、先生はもう中に入るよ。」
背を向けて教室の方に歩いて行くサンの背中を懐かしくスンミは見ていた。
あの背中に誰もいないレッスン場で抱き付いて甘えたりしたのはつい数ヶ月前までなのに、もう何年も前のように思える。
「行こうか?」
「うん。」
サンとの事を知っているヒョンジャは、嫌な顔もしないでずっと何も言わないでいてくれた。
「先生と会って、まだ気持ちは残っていたか?」
その言葉は優しくて、熱が下がるたびに大丈夫かと聞いて来る父と同じように優しく聞こえた。
「不思議ね・・・・・・私は先生が大好きで、一生人前で恋人として堂々と歩く事を諦めていたのに、その考えが嘘みたいになんとも思わないの。アッパがサン先生に年相応の相手と見合い・・・して・・・・オンマが泣きながら娘の私の事を心配して『辛い恋愛はさせたくない』と言ってくれた事がよく判ったの。キム先生と出会わせてくれて・・・・・そんなキム先生との出会いだけど、一生私の傍にいてくれる人はキム・ヒョンジャしかいないって、サン先生の顔を見てそう思ったわ。」
照れ臭そうにヒョンジャは髪の毛をかき上げて、見つめるスンミの視線を外した。
「家に送って行くよ。」
「もう一ヶ所連れて行ってもらってもいい?」
「もう一ヶ所?」
「私の一番の親友の所。」
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