明日はまだ何もない明日(スンミ) 85
今はこの雰囲気も嫌ではなくなった。
久しぶりに来た大学は、懐かしいとかそんな気持ちにはならなかった。
元々、体調を崩すと大学を長く休むから、自宅でインターネット講義を受け、レポート提出で単位を取っていたから、他の学生の様に誰かと話をしたり、ランチの約束をしたりする事もなかった。
前までは、大学に来る事が出来る時でも、話の中に入る事も出来ず打ち解けないで一人でポツンとしている事が多かった。
病気がちで休む事が多いだけじゃなく、私はある意味有名な学生だから。
アッパの肩書と、ハンダイ一族だと言う事が敬遠されていた事も知っていた。
「ペク・スンミさん?」
いつも通り講義が終わり教材を鞄にしまっていたら、数人の学生に声を掛けられた。
「はい、何か?」
私の通う大学は、富裕層の家庭の娘が通う学校だから、ライバル関係になる財閥の娘とは話もしなければ、顔も見ないと言う事が日常茶飯事。
ハンダイはどこの財閥グループとも関わっていないから声を掛ける事に気を遣わなくてもよかった。
「もう、大丈夫?」
「ええ、ありがとう。卒業までの一年間は休まないで通えそうです。声を掛けてくれてありがとう。」
てっきりスンミは、いつも体調不良で休んでいる事を心配して聞いて来たのだと思った。
「違う・・・・あの・・・・・・・」
その学生の目が落ち着きなくチラッと別のグループの方の女の子の方を見ていた。
サン先生との事を聞きたいのだわ。
あれだけ大きく雑誌に取り上げられていたのだから、知らない人はいない事は判っていた。
あの記事の事を思い浮かべると、きっと以前の私なら涙が出て来ていたかもしれないけれど、ヒョンジャが私の本当の気持ちを知っていてくれるからちゃんと笑顔で応える事が出来る。
「雑誌の事?」
ストレートに答えたスンミに、その学生は驚いた顔をした。
「あれは全部は事実ではないし、もう終わった事なの。」
「終わった事なの?」
「私ね、休学中にお見合いをして大学を卒業したら結婚をするの。」
大学を在学中に資産家の子息とお見合いをして卒業と同時に結婚する学生が多いから、私がそう言っても驚く事もこの学校の人たちはしない。
「そうなの、おめでとう。」
「ありがとう。」
それだけの会話。
友達なんて欲しいとも思った事はなかった。
いつも、サン先生と会って先生に髪を撫でてもらい、見つめ合っていればそれだけでいいと思っていた。
「あの・・・・あと一年だけど、友達としてお話をしてもいいかしら・・・・あそこにいる人たちも、よく一人でいるあなたを気にしていたから・・・・・・・卒業してもお勤めとかしなくて私たち暇だから・・・・・・」
「私、仕事をするからあまり時間が無いけど、それでも良ければ。」
私が仕事をすると言った事に驚いたみたいだけれど、連絡先を聞かれて困る相手ではなかったから、お互い携帯のにAddressの交換をした。
人生21年で初めて出来た友達。
一番の親友のミラがいればそれでいいと思っていたのは、私のただの強がりだったのかもしれない。
学校の帰りに大学近くのカフェでお茶したり、お互い付き合っている彼の話をしたり。
こんな事が出来たのは、きっとアッパが望んだ年相応の事だったのかもしれない。
「良かったな。」
「キム先生のお蔭ね。」
一緒にキム先生と夕食を摂りながら、気が付けば昼間の大学での話を夢中でしていた。
黙って私の話を聞いているキム先生は、いつもと違ったドキッとするような熱い目で私を見ている。
そんな熱い目で見られると、恥ずかしくなってしまい、自分の心を誤魔化すようにフォークの肉を口に入れた。
「オレのお蔭か・・・・・・・・」
心臓がどきどきしているのが先生に聞こえたりしないかと思うと、美味しいはずの肉の味が判らない。
ヒョンジャはグラスに注がれている、ワインを一口飲んでレストランスタッフに合図を送った。
そんな合図も知らず、スンミは俯いたままフォークで肉を口に運んでいた。
室内がフェードするように照明が暗くなったかと思うと、温かい光がスンミに当てられ、真っ赤なミニ薔薇の花束が視野に入って来た。
「えっ!」
花束に添えられたカードにキラリと光る物が付いていた。
「先生・・・・・・・・・」
「こんな事をするのはオレの性分ではないけど、スンリがスンミはこういうのが好きだと言ったから・・・・・・でも、受け取る前に言わないといけない事があるんだ。」
さっきまでのドキドキよりももっと心臓の音が大きく聞こえるような気がする。
婚約したとはいえ、口頭だけでちゃんとした約束をしたわけでもなかった。
スンミはヒョンジャが言おうとしている言葉を、緊張した面持ちで待つ事にした。
「スンミが好きだ。この間お互いの両親との顔合わせをしたから、ちゃんとプロポーズを言うつもりで用意して来たけど、ずっと隠していた事も言わないといけないと思って。」
もったいぶって、中々言おうとしないヒョンジャにスンミは不安になって来た。
「スンミがあのバレエの先生と付き合っている事はスンリから聞いていたから、見合いをしても最終的には断られると思って、転勤の希望届を出していたんだ。」
大学病院に登録はしていても、関連の病院に転勤がある事をスンミは知っていた。
父も数年おきに、単身で関連の病院に行っていた事があったから、ヒョンジャが転勤になってもスンミは付いて行くつもりだ。
「海外なんだ・・・・・アフリカ・・・・・」
0コメント