明日はまだ何もない明日(スンミ) 90

「二人で話し合ったのか?」

「話し合っていないけど・・・・・アッパは知っていたの?」

「知っているも何も、推薦状を書いたのはアッパだからな。ヒョンジャの希望が通るとは思っていなかったが、向こうの病院も人手が足りないらしくて、こんなに早くに内定通知を出してくれるとは驚いたよ。」

何も知らないスアとスングは、アフリカに行くとキリンがいるだとかライオンに襲われるだとか、裸で生活をするだとかふざけているのか真面目なのか判らない事を言っていた。

「キム先生は、一緒に行ってくれとも待っていてくれとも言わなかった。私次第だって・・・・」

「スンミは身体が弱いのよ。アフリカに行って病気になったらどうするの?ちゃんと消毒された機材もないし、白いシーツのベッドで休む事も出来ないし・・・・・お水だって自由に使えなくてシャワーも毎日出来ないわよ。」

取り乱しているのを通り越してパニックになっているハニの肩をグミは支えた。

「病気になるかどうか分からないわ。キム先生がいるから病気になんてならないし、もう私はいつまでも弱々しいスンミじゃないの。静養所で土を耕し、種を蒔いて水をやって・・・・気候も土壌も違うけど結構楽しかったし、泥にまみれるのも嫌じゃなかった。衛生的な事を考えてオンマは心配してくれるけど、その為に髪の毛も切ったしスカートからジーンズに変えたのも、動きやすいようにする為よ。この格好ならテントでの寝泊りでも野宿でも出来るわ。」

一度言い出したら聞かない性格でもなかったスンミ。

今までとは全く違う、どちらかと言うと姉のスンハや祖母のグミとは正反対だった娘が、スンハやグミと同じ人に変わっていた。

「ねえ、アッパ。アッパはいつもそうやって何も言わずに、黙っている時は反対だって言う事は判っているけど、私はもうキム先生と一日でも離れていたくないの。キム先生のいない生活を考えられない。大学だって行きたいわけでもないし、ただみんなが行くから行くだけの事。私がこれからの人生にしたい事に役立つ事を学んでいるのじゃないから。」

無表情にしていたスンジョが、クスクスと笑っていたかと思うといきなり大きな声で笑い出した。

声を出して笑う事が滅多にないスンジョの様子に、小学生のスングとスアは驚いて口に運ぼうとしていた食べ物を落としてしまった。

「な・・・何が可笑しいの?私には無理だって思っているのよね・・・」

「いや・・・・・スンミはアッパとオンマの子供だなと思って。」

「何を言ってるのよ。私はスンジョ君以外の人の子供は生まないわよ。」

「そうじゃないよ。ハニが浮気なんてするわけがない事は判っているけど、スンミくらいの年齢の時のオレ達と似ているから。ハニはオレしか見ていないから、どんな環境でもオレさえいれば他に何もいらないみたいによく言っていたし、大学に行っても・・・・・は高校の時に進路で迷った時に思った事だし、一番オレ達に似ているというのは言い出したら聞かない性格だな。」

食事をしていたスンギとスングとスアは、自分たちの部屋に引き上げて行った。

子供の自分たちがこの話に入り込む事が出来ない事はよく判っていたし、こう言った話の時はその場にいない方が一番いいと思っていた。

「で・・・・・スンミは、野戦病院にでも行くのか?」

「野戦病院って・・・・・・何の事よ。戦争をしていない所に行くことは判っているけど、アフリカの病院ってテントを張った病院だから、シャワーもないしベッドもないから・・・・それでも野戦病院って言うの?」

笑いを堪えながらスンジョは、席を立って書斎に何かを取りに行き直ぐに戻って来た。

手に持っていた一通の封筒をスンミに手渡した。

「これを見てごらん。」

スンミはその封筒の中から一冊の冊子を取り出した。

英語で書かれたその冊子を開けた途端、驚いた顔をした。

「ここ?ここの病院に行くの?」

「そうだよ、読んでごらん。ヒョンジャの行く病院が、海外からの若手医師の研修用に発行している冊子だ。ヒョンジャが行くとスンリに言ったら、スンリも興味を示してね。」

「ダメよ、スンリは。もうすぐ子供も生まれるのにソラちゃんを連れて行くのは良くないわ。」

「ハニは心配しなくてもいいよ。スンリは行けないよ。ひとつの大学からは一人の枠しかないから。」

パラパラと頁をめくっているスンミの表情が変わって来た。

「テントの病院じゃないのね。シャワーも空調もベッドも綺麗に用意されているみたい。」

「アフリカは広い。いくら研修の為だと言っても、ライオンやキリンが傍にいる所に行くのが目的じゃない。整った設備があっても使いこなせない現地の人と一緒に治療をするのが目的だ。大事な研修医を送る大学側もちゃんと考えているから心配するな。スンミがそれでも行きたいのなら、アッパは何も言わない。お前は顔もオンマに似ているが、考えも行動もオンマと似ているから、反対したら食事も摂らずに寝込むだろう。お前の体調の事はヒョンジャが静養所でちゃんと記録を取っていたから、アッパは任せる事が出来る。後はオンマがどう言うかだ。」

スンジョが大丈夫と言えばハニは反対はしないが、ハニ自身外国での生活経験がないから、大切な娘が遠い国に行ってしまう事に不安はある。

好きな人と離れて暮らす事がどれほど辛いのかは判っているから、ハニは淋しい気持ちもあるがスンミをスンジョの言葉を信じて送り出す事に決めた。

それから数日後に、スンミは入籍をしてキム・ヒョンジャの妻になり、身の周りの物だけを持ってヒョンジャと一緒にアフリカに旅立った。

ペク家のスンミの部屋には、着る事のなかったウエディングドレスが掛けられていた。

「お母さん・・・・・無駄になっちゃった・・・・・・」

「本当ね・・・・スンジョに言ったら、私とハニちゃんが勝手に作ったからオレは知らない・・・・・・ですって・・・・・」

諦めきれない二人は、まだ仕付けの付いたままのドレスをため息を吐きながら眺めていた。

「そうだ!ハニちゃん、私・・・撮影旅行の仕事が有ったのを忘れていたわ。」

「すみません・・・スンミの事でバタバタとしていたから・・・・」

「ううん・・違うの。出版社がね『選ぶ場所は自由です』って・・・そう言っていたわ。だから・・・・」

「だから・・・・!!・・・・アフリカに行くのですか?」

「そうよ!遠いアフリカで暮らす新妻・・・・チョッとネーミングが嫌らしいけど、そこはまた考え直して・・・・行って来るからその間は家の事はお願いね。」

「はい!任せてください。」

それから数日後、スンミの為に作ったウエディングドレスは、ペク家のスンミの部屋から消えていた。

明日はまだ何もない明日・・・・・だから、冒険も出来るし、幸せを探しに行く旅も出来る。

スンミはまだ何もない明日を、大好きなキム・ヒョンジャと暮らす事に選んだ。

そんな思い切った行動も、帰る場所があるから新しい事に挑戦出来る。

自分を強くするのも弱くするのも、気持ち一つで変わる。

ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

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