スンスクの春恋(スンスク) 6
無言の父の顔をスンスクは不安そうに見上げた。
「どうして、教育者になりたいのだ?」
きっと父は自分と同じ道を選んで欲しいと思っているのだろう、とスンスクは思った。
「おさん、ごめんなさい。僕は医師に興味がなくて・・・・・・」
「医師に興味がない?」
「姉さんと兄さんも医師になったのですが、僕には全く興味がなくて、今までやりたい事も無くただ本を読んで過ごしてきました。でも、やっと興味を持った事があったので・・・・・・」
「それが、教育者か?」
「はい、人に自分の持っている知識を伝えるむずかしさを、教育実習の先生の姿で考えさせられたのです。学校の先生も、お父さん以来のIQを持っているのだから当然将来は、お父さんと同じ職業を選ぶと思っていらっしゃったのでが・・・・・・・気の弱い僕には、人の生死に関わる事はとても無理です・・・・・・」
反対されると思った。
「やってみなさい。教育者の夢を実現させなさい。スンスクならいい先生になれるよ。」
「お父さん・・・・・・・」
「よかったねスンスク。」
お母さんの目が潤んでいた。
その目はホン先生とよく似ていて、急にホン先生に会いたくなって来た。
日ごろから自分の考えも上の兄弟の様に言う事もしないスンスクの初めて聞いた将来の事。
両親に頭を下げてスンスクは自分の部屋に向かった。
その姿を見て、ハニは涙が止まらなかった。
「スンスクは大人しくていつもスンハやスンリの陰でただ黙って笑っている子供だったのに、一番可愛そうな事をしたと思っているの・・・・・」
「ハニ・・・・・」
「スンミは身体が弱いから、私はスンミの事を気にかけていたけど、年子のスンスクは生まれた時から大人しくて・・・・・・自分の気持ちを言う事もしなくて・・・・」
「判っているさスンスクも。スンスクはオレに一番似ている子供だから、どうしたら一番上手く行くのかよく知っているさ。」
「フン!自分の考えで間違った判断を、あの時にはしたくせに・・・・ヘラとの・・・・・」
「あれはあれで良かったんだよ。あの事があって、初めてハニへの気持ちに気が付いたから。でも、随分とお前を泣かせたよな。」
「今が幸せだから、許してあげる。さっ・・・・・もうすぐスンギと双子たちが帰ってくるから、おやつの用意をしないと。」
スンジョは一人ずつ大人になって行く子供たちが、ハニと似ている優しい性格の子供たちで、改めてハニの存在が今のペク家の幸せだと実感した。
部屋の慈雨分の机に座ったスンスクは、進路指導の用紙に【第一志望:パラン大学社会科学部】と明記した。
ホン先生、僕は先生と同じ道を選ぶ事にしたよ。
先生待っていてください。
スンスクはこっそりと本の間に挟んでおいた、ホン・ミラの写真に呟いてまたその写真を本に挟んで閉じた。
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