スンスクの春恋(スンスク) 8
ドンッ!!
ガタン!・・・
ミラに突き飛ばされて、スンスクはベッド脇に置かれていた椅子にぶつかった。
「年上の女性(ひと)をからかわないで。」
「すみません・・・・」
スンスクは顔が上げられなかった。
からかっていたわけでもなく、ミラにどうやって自分のこの気持ちを伝えたらいいのか判らなかった。
「もう来ない方がいいね。私はまだ教師ではないけど、生徒と先生がこんな風に会っているのはいい事じゃないと思うの。」
「もうこんな事はしませんし、僕はもうすぐ高校を卒業します。先生ももう教育実習が終わったのですから何の問題もないと思います。」
ミラが悲しげな微笑みをスンスクに向けた。
「私は治らない病気なんだよ。筋委縮性側索硬化症という病気なの。」
「先生の病気が何でも僕には関係ないです。僕は先生の支えになりたいです。」
「そのために、パランの社会科学部にしたの?あなたならもっと上の大学に行けるでしょ?私の為に自分の人生を無駄にしないで。」
興奮しているミラの声が大きかったからなのか、看護師が心配して様子を見に来た。
「ホンさん、どうされましたか?」
「何でもありません・・・・・少し進路相談を受けていたので、注意しただけです。」
興奮状態のミラはそう取り繕っても、二人の間で何かあったと看護師にとられてもおかしくない程に顔が上気していた。
「スンスク君、あまり患者さんに興奮させないでくださいね。これ以上興奮させるようでしたら、お父様に許可を得ていても出入り禁止にしますからね。」
「すみません・・・・・・・」
看護師がドアを閉めて、廊下を歩く足音が遠くなるまで二人は無言だった。
「私だって、夢があったのよ。この病気が発症しなければ、彼と結婚して、彼とよく似た子供を生んで・・・・・沢山生んで・・・・・・・・ずっと生きたかった。でもね、この病気は進行が速くて3年から5年で・・・・・・スンスクの支えがあっても、あなたは大学を出て教員になって・・・・・・・恋愛して・・・・結婚して・・・・親になって・・・・私の事を忘れてしまうわ。今は、ただの憧れなのよ。」
気の利いた言葉がスンスクには思い浮かばなかった。
兄のスンリだったらきっと気の利いた言葉を言うだろう。
太っている外見に顔も平均以下の自分が、気の利いた事を言ってもミラが喜ぶはずがない。
「先生、僕と結婚してくれませんか?」
「はっ?何を言っているのよ。あなたはまだ高校生でしょ?」
「結婚できる年齢です。あと数週間で年が明けるので19歳になります。結婚して先生の支えになりますから・・・・・」
「どうしてわかってくれないの?支えになるって言う事は結婚するって言う事じゃないのよ。私の病気は筋力が弱って、段々言葉も出なくなるのよ。酸素吸入をしないと呼吸も出来なくなるし・・・・そのうちに排泄も出来なくなるし・・・・・結婚してもスンスクの事を何もしてあげられないわ。」
涙をポロポロと流して話をしているミラの顔を、スンスクはポケットからハンカチを出して優しく拭いた。
「先生・・・僕の事好きですよね?」
ドキドキした。
好きじゃないと言われるかもしれないけど、ちょっと強気に出てみた。
兄さんの様にかっこよくないけど、兄さんならこう言うかもしれない。
「私が?スンスクの事を好きですって?」
「先生・・・ずっと最近僕の事を呼び捨てにしている。前はペク君とかスンスク君と言っていたでしょ?」
「・・・・・・・・・・」
「僕が先生の支えになりますから。4年後には必ず教師になれるように勉強をします。だから僕と先生も一緒に教壇に立ちましょう。」
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