スンスクの春恋(スンスク) 10
スンスクと向かい合って座るスンジョは、目を閉じてハニが来るのを待っていた。
数回ノックをして、ハニが書斎のドアを開けて入って来た。
「ゴメンね、スングとスアが驚いちゃって・・・・・」
いつもと同じように、スンジョの横にハニは並んで座った。
「いつから・・・・・いつから、ホン・ミラさんと付き合っていたんだ?」
スンジョの低い声はいつもの優しい声とは違って、スンスクは怖くなって来た。
「ホン・ミラさんって・・・・・教育実習の大学生でしょ?」
ハニの質問にスンスクは黙って頷いた。
「お父さんの質問に答えないのか?」
「付き合っていません。」
「付き合っていないのなら、どうして結婚をしたいと言いだせるんだ?」
口数の少ない大人しいスンスクは、スンジョの冷たい言い方に答える事が出来なかった。
「スンジョ君・・・人の事は言えないでしょ?スンジョ君だって私と付き合っていないのにというか・・・・・好きだとも言った事がないのに、いきなり結婚したいって大人たちの前で言ったじゃない。」
「そ・・・それは・・・・」
ハニは母親らしく優しい声で、スンジョの言葉に怯えているようなスンスクの手を握った。
「スンスクは、その人のどこが好きで結婚したいと言ったの?先生はスンスクより年上でしょ?」
「先生はお母さんとよく似ていたから・・・・・・でも、一番先生と結婚したいと思ったのは・・・・・病気で・・・・それを支えてあげたくて。」
「病気?」
ハニはスンジョの方を向いた。
目を瞑ったまま、スンジョは口を開いた。
「ALS・・・筋委縮性側索硬化症・・・・判るなハニ・・・」
ハニは病名を聞いて、手で口を押えた。
「スンスク、どんな病気か判って言っているのか?進行の速い病気だぞ?」
「わ・・・・判っています。先生から教えていただきました。」
「結婚は遊びじゃ無いんだ。結婚して親になって死ぬまで何年人は生きて行くと思っているんだ?お前はまだ19歳だ。自分の人生を病気の人との生活で過ごして行くのか?」
「遊びのつもりはありません。真剣です。先生を支えて行く事に迷いはありません。」
「スンスク!!」
スンジョの手がスンスクの頬に当たり、スンスクは椅子から転げ落ちた。
「スンジョ君、ぶたないで!スンスク・・大丈夫?」
「お父さんは、僕の事今まで無関心だったじゃないですか。小さい頃からいつも思っていたんです。」
「何を思ってたんだ?」
ハニはスンジョからスンスクを守るようにずっと抱いていた。
「お父さんとお母さんの本当の子供ですか?」
「スンスク・・・・何を言うの?」
「僕だけ・・・僕だけ・・・両親に全然似ていないし・・・小学校の頃に学校で言われて、苛められていたのは知らないですよね?」
「スンスク、本当にそう思っているの?お母さんはそんな事を聞いたら悲しくなるじゃない。お母さんがスンスクを生む時・・・・大変だったのよ。スンミが生まれてすぐにできたから、沢山生んだ中で一番辛い出産だったわ。おじいちゃんが息を引き取る少し前にスンスクが生まれて・・・お母さんがいけなかったね。スンミの身体が弱くて掛りっきりで・・・・スンスクが大人しくしているから構わなくて・・・・・・」
ハニは、スンスクが苛められていた事を知らず、身体の弱いスンミに掛かりっきりになっていた事を申し訳なく思い謝っていた。
「似ていないって言うけど、スンスクのその穏やかな所は亡くなったおじいちゃんに似ているし、優しい所はお母さんに似ているぞ。それに、自分の思いを素直に表す事が出来ない所は、お父さんと似ている。お前はペク家とオ家のいい所を持って生まれてきた子供だ。間違いなく父親はオレで母親はオ・ハニだ。沢山の兄弟全員がお前と同じ両親だぞ。疑うならDNA検査でもするか?」
「ごめんなさい、お父さん・・・」
「でも結婚だけは、考え直しなさい。お父さんは医者だから病気の事はよく知っているし、その家族の苦悩はお母さんだって知っている。自分の可愛い子供が、治らない病気の女性と結婚して苦労する姿は見たくないんだ。」
「お願いします。どんな苦労も弱音を吐きませんから。病気の事も調べて自分で決めたんです。寝たきりになっても面倒を見ます。」
スンスクも一度言い出したら聞かない所がある事は、スンジョは知っているが医師としてより父としてはスンスクの結婚を許す事が出来ない。
「スンスク、結婚しなさい。お母さんがホン・ミラさんのお世話をするわ。」
「お母さん・・・」
「ハニ!判って言っているのか?お前はスンスクと結婚した相手の為に、看護師の仕事を辞めるのか?」
「辞めるのじゃなくて、在宅看護だと思えばいいじゃない。その代り、スンスクが大学で勉強に専念できるでしょ?私はおばあちゃんに、本当の娘のように面倒を見てもらったそのお返しをするなら、今度はペク家に嫁いで来てくれたお嫁さんのお世話をして行くわ。優等生の看護師じゃないけど、患者のお世話は誰にも負けない自信はあるわ。」
「お母さん・・・・ありがとう。」
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