スンスクの春恋(スンスク) 12
スンスクは毎日の日課になっているように、ミラの病室を訪れた。
咳払いをして、手に持っている小さな小箱の中を見て、ポケットの中に忍ばせた。
___コンコン・・コ
いつもは二度ノックをすると、ミラが応えてくれていた。
今日は、一度ノックをしたらすぐにドアが開いた。
「先せ・・・・・・あっ・・・・・」
ドアを開けた人は、五十代の物静かな感じのする女性だった。
「ペク・スンスク君?」
「はい・・・・・・・。」
スンスクはその女性の向こう側にいるミラを見た。
ミラは病院の検査着から、私服に着替えてベッドの上で俯いていた。
「どうぞ・・・・中に入ってください。」
スンスクはその女性に頭を下げて、病室内に入った。
ミラの顔を見ようとするが、ミラは顔を上げずスンスクから視線を逸らせてしまう。
「何か、飲み物を用意しますね。」
「僕は・・・・大丈夫です・・・あの・・・・・」
「私はミラの母親です。」
「あっ!お母さん、僕は・・・・・・」
引きつる顔でスンスクは背筋を伸ばして、出来る限りの笑顔で挨拶をするが、どうもミラの様子もおかしいが、ミラの母親の表情がいい感じではなかった。
「娘から聞きましたが、ペク・スンスク君は・・・・娘にプロポーズをしたそうで。」
「はい、両親にも話して許可を貰いました。」
ミラは両手で顔を覆って、声を出さずに泣いていた。
「そのお話は、なかった事に。」
ミラの母親がそう言うと押さえていた声が、もう押さえきれずに泣き出した。
「どうしてですか?結婚年齢に達しています。」
「年齢が達していても、あなたは高校生。それに娘は、治る事のない病気です。結婚生活を続ける事は無理です。今は若くて、あなたはミラに同情しているだけです。」
「同情じゃありません。」
「婚約を破棄した事は知っていますよね。」
「はい。」
「その婚約破棄は・・元婚約者の選択は母親的に正解だったと思いますよ。」
スンリはあの時見た派手な服装のお腹の大きな女性を思い出した。
お腹の中の子供はその男性の子供だと言う事を知っているのは、多分この中ではスンスクだけ。
「結婚をすれば、子を持ちたいと思うかもしれませんが、娘には未来はありませんし、遺伝はしないと言われていますが100%でもありません。どうか、このまま娘をそっとしておいてくれませんか?昨日の夜に見舞いに来た時に、教育実習先の生徒さんと結婚をする事を聞いて、先生にお願いをして、今日退院する事にしましたので、どうぞ娘の事を忘れてこのまま帰ってください。」
お父さんが手を廻したんだ。
賛成をしているようで、本当は賛成していなかったんだ。
同情なんかじゃない。本当に先生の力になりたいから、プロポーズをしたんだ。
「先生、先生は僕のプロポーズを受けてくれましたよね?僕は本気ですよ。それなのに、どうして・・・・・」
「ごめんね・・・・ごめんね・・・・・・スンスクの事、生徒としてじゃなくて本当に好きだけど・・・・・私、何もしてあげられないから。」
「先生は僕に夢をくださいました。何事にも負けないで、自分の決めた道を進むのは大変です。でも僕は先生と一緒に教壇に立つ日を待っていますから。」
僕が何度も叫んでも、先生は振り返らずに退院してしまった。
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