スンスクの春恋(スンスク) 13
ミラの母は辛かった。
婚約者から突然の破談。
娘が倒れて駆け付けた病院で出された診断を夫と一緒聞き、泣くに泣けなかった。
結婚が決まっているから、婚約者の家に病名を告げたと同時に破談の話を聞かされた。
相手の家柄に合うようにと教師を目指す事を決めた娘が、運び込まれてそのまま入院し娘自身も病名を知らされた。
泣き顔など見た事がないくらいにいつも明るい娘が、両親が病室を出た途端に、外まで聞こえるくらいの大きな声で泣いていた。
「ミラ、ここで座って話をしようか。」
娘の細くなった手を取り、身体を支えてベンチに腰かけた。
「ミラ、あの子はいい子だね。」
「お母さん・・・・・・・」
「お前がこの病気にならなかったら年齢など関係なしに、たとえお父さんが反対しても、お母さんは応援したよ。でもね、誠実そうであんなにいい子に、この先苦労を掛けさせたくないと思ったの。高校生なのに、落ち着いていて・・・・・いいご両親に育てられた子供みたいだね。」
悲しそうな母の顔を見て、ミラはスンスクを始めて見た感想を聞いて、涙が流れて来た。
「スンスクのお父さんは、パラン大医学部の教授なの。お母さんは看護師で、お姉さんも優秀なお医者様でお兄さんは今年首席で医学部を卒業するの。それと・・・・・・ハンダイの一族なの。」
「うちにはもったいないくらいの家庭だね。お母さんもミラが普通に結婚して、母親になる事が当たり前だと思っていたけど・・・・・」
母と娘は目の前を歩く若いカップルを羨ましそうに見ていた。
お腹が大きな妻を労わり、手を添えて歩いているその姿は、ミラと母が憧れていた姿だ。
「お母さん、スンスクは本当にいい子なの。だから・・・・・・・結婚したい・・・・・この先の事なんてどうなるのか判らないけど、スンスクと一緒に暮らしたい・・・・・・お母さん・・・」
ミラと母のいるベンチから離れた所で、スンスクは必死になってミラを探していた。
母娘の座っている所からも、スンスクの表情が判るくらいなのに、声を掛ければ聞こえるくらいの距離なのに、母に逆らう事がミラには出来なかった。
この病気の未来は見えない。
教師になる事も叶わないだろう。
家に戻れば、そのうちに母が付きっ切りになる事は分かっている。
独立した兄弟にも頼らないといけなくなる。
ミラを呼んで走っているスンスクが、ドンドンと離れて行ってしまう。
追いかける事が出来たら、どんなにいいか。
離れて行ってしまうスンスクとの距離が、そのまま自分との距離でもあるような気がしてしまう。
自分よりも4歳も歳が下でも、頼りになるスンスクが婚約破棄されてからのミラの心の支えにずっとなっていた。
「私、結婚したいの・・・・・・お母さんにもなりたい・・・・それが実現できる期間が短くても、精一杯生きたという事をスンスクにもお母さんにも思ってほしいの。病気でこのまま死ぬのは嫌。」
「お父さんもきっと許してくれないはず。病気の治療に専念しなさい。」
治療なんてない事は母には判っていた。
投薬する薬も一種類しかない。
気休めにしかならないかもしれないが、娘を純粋な気持ちで好きなスンスクが残された事を思うと、若いだけに可哀想に思えた。
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