スンスクの春恋(スンスク) 14
「お父さんは今大学で講義の時間だろうか?」
スンスクは父に確かめたい事があって、医学部棟まで来ていた。
「おい、スンスク。どうしてここにいるんだ?」
呼ばれて振り向くと、兄のスンリが歩いていた。
「兄さん・・・・あの・・・お父さんと話がしたくて。」
「家で話せばいいだろ?今日は、オペもないし家に帰っているはずだよ。」
「そうですか・・・・・・・・」
兄妹の中で一番大人しくて無口なスンスクが、元気がない事にスンリは心配になった。
「どうしたんだ?彼女と喧嘩でもしたのか?」
「いえ・・・・・お父さんに聞きたい事があって。家に帰ります。」
「一緒に帰ろうか?兄さんも講義が終わったから、帰ろうと思ってた。今日はソラは裁判所に行っているから、会う約束していないから相談にも乗るぞ。」
兄さんは婚約者のソラさんと毎日のようにデートをしている。
ソラさんは親の会社の顧問弁護士にならず、どこかの事務所に入っていると聞いた。
「ほら!車の鍵を渡すから、乗って待っていろ。着替えたらすぐに来るから。」
益々、父スンジョとよく似てきた兄は、足るだけでその周りにいる女子たちが振り返る。
「兄さんはカッコいいな。僕も兄さんみたいに背が高くなりたかったな。」
学生の駐車場に向かって歩いていると、外来患者の中に見覚えのあるカップルがいた。
ミラの元婚約者とあの時一緒にいたお腹の大きな女性だ。
スンスクは咄嗟に姿を隠して、二人の様子を伺う事にした。
「お前さ・・・・・本当にその腹の子供はオレの子供か?」
「責任逃れするの?あなたの子供に決まっているでしょう。」
「旦那の子供でもあるかもしれないだろ?」
えっ?あの女の人・・・・結婚してるの?
「旦那とは、ベッドどころか部屋も別だし、ずっとキスもしていないわよ。」
「判るもんか!まだ離婚が成立していないだろ。」
「あんたの所為よ。慰謝料さえ払ってくれれば、向こうが離婚を承諾するって言ってたでしょ。」
「あぁ~ミラと婚約破棄するんじゃなかったな。あの女はオレが触れようもんなら<結婚までは~>って逃げるくらいに身が堅かったからな。キス一つで、真っ赤な顔をする初心(うぶ)な女だったよ。」
スンスクはぞっとした。
ミラが二人の話で汚されているようで、もう二度とあの男がミラに近づいてほしくないと思った。
「スンスク何をしてるんだ?車に乗れよ。」
「あっ・・・はい。」
胸がドキドキしていた。
自分がもう少し年齢が上だったらよかったのに。
今は結婚しても生活を親に頼らないといけない。
大学を出てからでは、ミラと結婚するには遅すぎる。
何が何でも、ミラの両親に結婚を認めてもらわないと時間がない。
「彼女と何があったんだ?親父が何かしたと思っているんだろ?」
「兄さん・・・・・・」
「ホン・ミラさんの両親が結婚を反対したんじゃないか?」
「知ってるの?」
運転している兄の顔はいつもの明るい笑顔ではなく、初めて見るくらいに真剣な顔をしている。
その顔が父の顔と重なって、もしかしたらスンリもそれに絡んでいるのかという気がした。
「知らないけどさ・・・・病気の事を知ったら、きっと彼女の両親だってスンスクとの結婚を反対するさ。おまけに歳が4歳下で高校生。生活能力がないし、同情で結婚すると思われても仕方がないな。スンスクは、昨日の親父の顔を見て、親父が手を廻したと思っているかもしれないが、親父はそんな事をする人間じゃない。」
兄さんの言うとおりだ。
裏で手を廻したりする事を父が嫌いなことくらいわかっていた。
だけど、そう思いたかった。
<お父さんは手を貸さないから>
賛成しているようにも聞こえるし、反対しているようにも聞こえる。
「彼女の家は知っているか?」
「兄さん?」
「医学部生だが、お前の兄だ。付いて行ってやるから、彼女の両親をお前の力で説得しろよ。本当に彼女が好きなんだろ?」
元気のなかったスンスクの顔がパッと明るくなった。
「ホン先生の家は・・・・・」
スンスクは兄に、ミラの家の住所を教えた。
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