スンスクの春恋(スンスク) 15
「ここだよ、兄さん。」
スンスク達が住んでいる閑静な住宅街ではなく、どちらかというと祖父の店の近くに似た商店が立ち並ぶ下町。
スンリはミラの家を通り過ぎて少し離れた所に車を停めることにした。
「スンスク、彼女の家に行くぞ。」
「兄さん、電話を掛けるから待っていてください。」
「電話なんか掛けないで行き成りの突入だ。掛けて居留守を使われる事もある。玄関を開けて彼女の気配があれば、兄さんも一緒に話してやるから。」
兄のこういった所は、母と同じで後先考えずに行動する。
それでよく婚約者のワン・ソラと喧嘩をしてしまう。
スンリは車を停めると、その周辺の家に挨拶をして『邪魔になる時は動かす時はすぐに動かすので・・・』と断りを入れていた。
「ほら、行くぞ。ご近所も味方につけるんだよ。」
愛想よく断りを入れる兄の姿は、自分が知っている兄とは別人に見えた。
兄妹の多いスンスクにとって、兄のスンリは憧れであり尊敬できる存在だった。
ミラの家のインターフォンを押すと、家の中から返事が聞こえ玄関のドアが静かに開いた。
「スンスク!」
運がいい事に応対に出たのはホン・ミラ。
ミラはスンスクと一緒に立っているスンリに軽く会釈をした。
「どうしたの?」
ミラは判っていた。
スンスクが両親を説得に来た事を話すと驚いていたが、門の扉を開けるために外に出て来た。
ユックリと、門までの通路に新しく付けられた手すりを使って二人を迎えた。
「初めまして、スンスクの兄のペク・スンリです。」
凛とした声で挨拶をする姿は父とよく似ていた。
「初めまして、ホン・ミラです。どうぞ・・・お入りください。」
教育実習で来ていた頃よりも手足が細くなり、早く歩く事が出来なくなっていた。
「ミラ・・誰だった?・・・・・あなたは・・・・・」
スンスクの顔を見てミラの母は驚いたが、一緒に来たスンリを見て頭を下げた。
「お母さん・・・・こちら・・・・スンスクのお兄さんで・・・・」
「スンリです。パラン大医学部の6年です。」
「あのお母さん・・・・・・僕は先生と、どうしても結婚がしたいので、もう一度お願いに来ました。」
緊張で赤くなった顔に震える身体。
ふくよかでどっしりとしているスンスクが、今にも倒れそうに見えた。
「上がってください。主人もいますので・・・・・・・」
スンスクはミラの父親がいると聞いた途端、冷静に話が出来るのか不安になって来た。
リビングに案内されると、ミラとよく似て優しい顔をした父親がスンスクを見て立ち上がった。
「君が?ミラと結婚をしたいと言っているのは君か?」
ミラは父親を説得していたようで、スンスクが何のために来たのかを知っていたが、スンスクとスンリを間違えているのか、スンリの方を見て言った。
「オレはスンスクの兄でスンリです。付き添って来ただけです。」
ソファーに座るように促されて、緊張した面持ちでスンスクは腰掛けた。
「あの・・・・・・・先・・・ミラさんと結婚させてください。両親も認めてくれています。高校生ですが、この春にパラン大社会科学部に進学する事が決まっています。」
「スンスク君・・・・娘、ミラの病気の事は判っているのか?治る見込みのない病気だ。君はミラよりも若いし先が永い。将来のないミラと結婚をしては苦労するぞ。」
「判っています。先生が最期を迎える時まで傍にいて、幸せだったと言えるように僕が守って行きますから、どうか結婚をさせてください。」
机に付くほど頭を下げるまだ少年の面影っが残る青年が、世間のまだ親に頼っている子供たちよりもしっかりとしていた。
「お父さん・・・・・・お願い・・・・・スンスクは、私が婚約破棄した事も知っているし、病気の事も承知で私と結婚をしてくれるの。一緒に教壇に立とうと言って・・・・・・叶わないかもしれないけど、普通の女の子と同じようにお嫁さんになりたい・・・・・・・お願い・・お父さん。」
ミラの父から少し離れた所で見ている母は、何も言えずただ涙を流していた。
暫く目を閉じて考えていたミラの父はスンスクの手を取った。
「君の気持ちは判った。でも・・・・・ベッドから動けなくなるし、君が家にいない時は誰がミラの面倒を見るんだ?それに、君と一緒に教壇に立つと言っても、3年から5年の命だ。君が大学生の間にミラは・・・・・・命の炎が消えるかもしれない。たった一人で家で・・・・・最期の時を迎えるかも知らないのなら・・・・・」
「お父さん・・お話に割り込みますが、父は医師ですしオレとスンスクの姉も医師です。患者として診る事は出来ないですが、役には立つと思います。それに、スンスクの母は看護師です。ミラさんの傍にずっと付いていると言っていました。安心してスンスクと結婚させてやっていただけませんか?」
スンリは知っていた。
本当は父は一切手を貸さないと言っても、ミラの病気についての症例を調べていた事を。
「お父さん・・・・・・・・お願い・・・・・もう二度と我儘は言わないから・・・・最後のお願い・・・・・」
「判った。ミラが病気で不安になった時も、ずっと傍に付いていてくれるのなら、どんな事になっても絶対にミラを見捨てない泣かせないと言う約束が守れるのなら結婚を許そう。」
スンスクはホッとしたら気が抜けたのか、声を上げて泣き出した。
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