スンスクの春恋(スンスク) 25
ミラは昨夜の約束をスンスクが守ってくれる事を信じていた。
「僕は、自分の進む路をその教育自習の先生と一緒に進む事を決めました。」
スンスクの言葉に静まり返っていた会場は急にざわつき、ペク家の家族と一緒に座っているミラの方に視線が向けられた。
「皆さんの進む路は家族の願いもあるかもしれません。自分の夢を実現するために決めた路の人もいると思います。その先生のようにどんなに苦しくても、負けないで夢を実現してください。」
スンスクが一礼をして舞台から降りたが、意味深な言葉に誰もがスンスクの言っている意味が何なのかが気になっていた。
「あの・・スンスク君のお母様・・・そちらの方は・・今スンスク君の言っていた方ですよね?家族と一緒に座っていると言う事は・・・・・」
ハニもスンスクとミラが結婚の事を言わないように約束をしている事は知らない。
でも、どう言っていいのか迷っていた。
「うちの嫁ですわ。孫もいい嫁を迎えたので、進む路を見つけたのでしょうね。」
「お母さん・・・・・」
「いいじゃないの言っても、うちには結婚してもいい男の子がいるのだから・・・・・ほら、奥様・・・・・来賓の方の挨拶ですわよ。」
グミもミラとスンスクの事を思って誰だとは言わなかった。
有名なペク家には今年医学部を卒業したスンリがいるのだから、まさか高校を卒業したばかりのスンスクだとは誰もが思わないだろうから。
式典が終わると、思い思い集まって卒業生たちは写真を撮ったりメアドの交換をしていた。
ミラはベンチに座って、その様子を静かに眺めていた。
謝恩会があるからスンスクとは一緒に帰れないが、ブログに載せる為に使う写真を撮り、ハニは来賓の挨拶を終えたスンジョを探すためにどこかに行った様だった。
「先生?」
ミラはスンスクとは違う声に振り向いた。
「判りませんよね?」
教育実習で担当したクラスではない女子生徒が立っていた。
「え・・っと・・・・・」
「私、先生には教えていただいていないんです。先生が入院される前の日に、転んだ時近くにいたんですよ。」
「あなたが助けてくれたのね。あの時はありがとう。」
その女子生徒はミラの指輪を見て、ニコッと笑った。
「先生、結婚したんですね。おめでとうございます。」
隠さなくてもいいとは思ったが、無意識にミラは指輪を隠した。
「旦那様って・・・・ペク・スンリ先輩ですか?」
誰でもそう思うだろう。
スンスクが言った言葉を考えると、ペク家で一番ミラと結婚してもおかしくない人はスンリしかいない。
「スンリ先輩は・・・・確かオリエントコーポレーションのご令嬢のワン・ソラさんと婚約中って聞いていたんですけど・・・・・・」
「スンリさんではないですよ。」
「それじゃあ旦那様はどんな方ですか?」
離れた所からスンスクがこちらを見ていた。
内緒にしようと言った事を守らないといけない。
先のない自分の人生にスンスクと結婚した事を、彼を守るためにも言いたくない。
「優しくて、温かくていい人よ。」
「幸せなんですね。すごく先生綺麗になったから。」
「幸せよ。」
「早く病気がよくなって良かったですね。」
誰も知らない。
ミラが未来を望めない病気になったとは。
手を振ってその女子生徒は謝恩会に向かう友達と合流して行った。
「ミラ・・・・」
「スンスク、ここにいたら他の人に判っちゃうよ。」
「判ってもいいよ。僕はミラと幸せになったって、大きな声で言いたいくらいだから。」
ミラとスンスクが話をしていても、誰も特に気にも留めなかった。
模範生のスンスクが、まさか教育実習で来ていたミラと結婚した事など誰も知らないし、興味もなかった。
「謝恩会に行ってらっしゃい。私はお義母さんとお義父さんと家に帰って待っているから。」
「じゃぁ・・・・行って来ます。」
校門に向かって歩いて行くスンスクをミラは見送った。
この先あとどれくらいスンスクを見送る事が出来るだろうか。
先が見えなくても、自分がこの世に生きて過ごした事を後悔しないように、スンスクと幸せに過ごしたいと思った。
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