スンスクの春恋(スンスク) 26
謝恩会は誰がそれを言い始めたのか、教育実習注に緊急入院したホン・ミラが卒業式に来ていた事で話が持ちきりだった。
「でもさぁ~どうしてスンスクのお母様とおばあ様と一緒にいたの?」
大人しいスンスクに何かを聞きだしたそうに、遠まわしに聞いてくる女の子が群がっていた。
スンスクはミラが自分と結婚したから母と祖母と一緒に座っていたと言いたかった。
言いたかったが、昨晩ミラと約束をしたから黙っていた。
普段からあまりしゃべらないスンスクが口をつぐんでも、誰も特に気にする事もなかった。
「お兄様の婚約者はオリエントコーポレーションのお嬢様だったわよね。」
「はい・・・・・・」
「誰かがホン先生の左手の薬指に指輪をしていたから、結婚したみたいって言ってたわ。」
「ペク家の家族と一緒にいたんだけど、お兄様ではないから・・・・・・・まさか・・・・スンスクが結婚したの?」
一瞬謝恩会場は静かになった。
顔を赤くしているスンスクにみんなの視線が集まった。
「ぼ・・・僕は・・・・・・・・」
「違うに決まってるじゃない。スンスクは今まで本ばかり読んで、女の子と付き合った事もないから。」
「そうね。ホン先生は確か、彼氏がいて婚約中だとか前に行っていたわよね。結婚したんじゃない。入院していた時にスンスクのお母様とお知り合いになっただけなんじゃないかな?」
みんなが勝手な事を言ってもスンスクは黙って聞いていた。
昨晩のミラとの約束で、学校の誰にも結婚した事は言わない。
言ってしまえばミラを悪く言う人がいるから。
ミラを守ると約束して結婚したのだから、そのためにこの事は絶対に言わない。
親しい友達も特にいるわけでもない。
一応最後の1クラスの集まりだからと参加を申し込んだが、みんなの話を聞いたり話をしている人たちの顔を見ても、早く家に帰りたくて仕方がなかった。
いつもはこうして見ていても楽しくはないが、1クラスがこんなに自分の居場所じゃないと思った事はなかった。
「ゴメン・・・・帰る。」
「二次会まで行かないのか?」
「約束があるから。」
約束なんてない。
ただミラに会いたいだけ。
会って一緒にウッドテラスで祖母の焼いたお菓子と、母が淹れてくれたカフェオレを飲みたい。
「もしかして・・・スンスク彼女と祝うのか?」
「な・・・・なにを・・・・」
ミラとの事は誰も知らないはず。
入院している時に病室を訪れた事はクラスの誰も知らないはず。
「だれ?生徒会の後輩なの?」
良かった知らないんだ。
「違う・・・・・家庭教師の先生だよ。」
「へぇー女子大生か。大人の女性が好みだったとはな。もうお開きの時間だから、いいよ帰っても。」
そう言われてスンスクは上着を持って、謝恩会場を出た。
繁華街に来る事もないスンスクは呼び込みに目もくれず、ミラの待っている家に急いだ。
ふと小さな花屋に目が留まった。
学生服のポケットの中に有る、財布の中身をそっと確認すると、スンスクは花屋に向かった。
「すみません・・・・・あの・・・・・これを全部ください。」
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