スンスクの春恋(スンスク) 36
パラン大学の7クラス
そう言われている社会科学部の学生として授業を聞いているスンスクを、何名かの生徒がチラチラと見ている。
講師が授業の終わりの挨拶をして教室から出て行くと、ひとりの学生がスンスクに声を掛けて来た。
「ペク・スンスク君だよね?」
スンスクが顔を上げると、声を掛けて来たのは7クラスにいたイ・ヘリだった。
今まで話はした事はなかったが、学年のクラス委員の集まりで時々見かけた。
「私・・・・・・」
「7クラスのイ・ヘリ?」
「時々学年クラス員の集まりで会っただけど、知っていてくれたのね?」
スンスクは、本をカバンに片付けると立ち上がった。
「何か、用ですか?」
「学年一位のペク・スンスク君が、どうしてこの学部に来たの?お父さんとお姉さんたちと同じ医学部かテハンに行くと思ってた。」
「教員になりたいからですよ。」
スンスクは同級生であっても、ため口では話さない。
真面目過ぎるぐらい真面目だった男の子で、意外と女の子に人気があった。
勿論、この事はスンスクは知らないし、知っていたにしても兄のスンリのファンか父スンジョのファンだと思っていた。
スンスクの左の薬指が一瞬キラリと光った事にイ・ヘリは気が付いた。
「結婚・・・・したの?」
「うん・・・・結婚した。」
「いつ?」
そう言われれば次には誰と結婚したのかを聞かれる。
ミラと約束した事の一つに<同級生たちには内緒にしよう>があった。
でもそれはミラがスンスクを思っての約束だと知っている。
「結婚したよ、高校の卒業式のちょっと前に。」
「どんな人なの?どこかのご令嬢とか?」
「同じ高校で、それほど親しくない君に、そんなに詳しく言う必要はないと思うけど・・・・そっとして欲しいんだ。じゃぁ・・・・」
それ以上を追及してほしくなかったからスンスクは、教室を振り返らずに出て行った。
今日の全ての授業が終わると、早く家に帰りたくて仕方がない。
学生駐車場に停まっている自分の車に乗って、カバンから携帯を取り出した。
数回コールして相手が電話に出た。
勿論相手はミラだ。
<スンスク?>
「今から帰るけど・・・・・・」
<どこにいるの?>
「大学だけど?どうかしたの?」
<私も今大学にいるの、一緒に帰ってくれるかなぁ?>
「どうして・・・・ひとりで大学に来たの?」
<入院して取れていない授業の補講を特例でしてくれるって、電話が掛ってね・・・・・一人で来ちゃった。>
「学生駐車場にいるけど、そっちに行きますから待っていてください。どこにいるんですか?」
<今、図書館横を歩いているの。そこに行くまで待っていて。絶対に来ないで。>
ミラが一人で歩いていると思うと心配で仕方がなかった。
社会科学部の学生が使う図書館の方に向かってスンスクは走りだした。
運動神経もそれほどよくないスンスクだが、ミラの事を思うと不思議と速く体が動いた。
誰もいない駐車場に向かう道を、ミラはいつもの日課の事を考えて辺りの景色を眺めながら歩いていた。
ふと歩いて行く先の方を見ると、汗を流して走って来るスンスクが見えた。
廻りには誰もいない事を確認して、大きく手を振って呼んだ。
「スンスク!ここよ。」
ミラのその声を聞いたスンスクは、どうしてなのか多分本人も気づいていないだろう。
目から涙が流れていた。
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