スンスクの春恋(スンスク) 38
昼過ぎの公園は春と言っても気温が夕方には下がり肌寒くなり、帰宅する人とすれ違った。
ミラに合わせてゆっくり歩いていると、ミラがスンスクの手を握って来た。
「デートなんだから・・・・・・」
驚いてミラを見ると、ミラはウインクをして握った手をさらに強くした。
貸しボートでチケットと救命具を受け取ると、ベンチに座って待っているミラの所に走った。
走らなくてもミラはスンスクを置いてどこかに行ったりはしない。
「これを着て・・・・・・・」
ミラの身体に救命具を掛けると、その手をミラは止めた。
「自分で出来るわ。」
ミラの幸せに笑う顔にスンスクも幸せになった。
「30分しか乗れないみたいだよ。うまく漕げるといいけど・・・・」
「ボートに乗った事はあるの?」
「小さい頃にね。両親が仕事で忙しいから、兄さんが連れて来てくれた。その時に兄さんが漕いでいるのを見た事があるだけだから・・・・・・・」
「転覆・・・・・しないかなぁ・・・・・・・」
ミラの心配そうに聞く顔がさっきまでの顔と変わり、急に不安そうになっていた。
スンスクは救命具を指差して笑った。
「これを着ていれば、太っている僕でも浮いているよ。でも、転覆なんかしないから・・・・」
揺れるボートにスンスクが先に乗り、ミラの手を取って恐々と乗り移った。
水面がキラキラと光り、風になびくミラの長い髪がサラサラと音を奏でていた。
二人は時間を大切に、水の音や水の冷たさをこの時間に一緒に過ごした事を忘れないようにしていた。
「気持ちいいね。周りにいる人たちは、私たちをどんな風に見ているのかな?」
「恋人だと思って見ているんじゃないでしょうか。さっき、横を通ったボートの人が話しているのが聞こえましたよ。ここでボートに乗ったら別れるって。」
「でも、大丈夫よね。私たちは恋人じゃなくて夫婦だから。」
どんな事があっても二人は別れないと、心でつながれる夫婦になりたいとお互いに思っていた。
ボート乗り場の方から時間が近づいた事を知らせる鐘の音が聞こえて、スンスクは汗を掻いて一生懸命にボートを漕いだ。
係員に救命具を返して、手をつないで広い芝生の広場に向かうと、そこはまだ陽が射し暖かい。
「待ってて、ハンバーガーを買って来るから。」
「ミラ、僕が買って来るから待っていてください。」
スンスクは、ミラを芝生に広げたハンカチの上に座らせて、急いでハンバーガー売り場に走って行った。
スンスクったら・・・・・そんなに急がなくても、まだ時間はあるよ。
計画通りにはいかないかもしれないけど、私は限られた時間以上にスンスクと一緒にいられるように頑張るから。
「買って来ましたよ。温かいうちに食べましょう。」
ミラの隣に座って、紙袋の中から取り出したハンバーガーを持たせた。
決して高い物でもないが、スンスクと一緒に食べるこのハンバーガーの味を忘れないように、ミラは味わって食べた。
「あ~お腹いっぱいね。」
大きく手を伸ばしてミラが寝転ぶと、スンスクも同じようにして寝ころんだ。
最初の計画の通りに青く澄んだ空に浮かぶ雲を何の形に見えるかを言いながら二人は何十分もそうしていた。
「ねぇ・・・・・スンスクは私が年上だから敬語を使うのよね?」
「そう言うわけじゃ・・・・・・・」
「年上だけど、私はスンスクの奥さんだから、敬語を使わないで。」
「でも・・・・・・」
「年齢の事を気にしているのなら、きっと周りの人はスンスクの方が老けて見えていると思うよ。」
「わ・・・・・判った・・・・・判ったよ。」
「よろしい!それじゃあご褒美よ。」
そう言うとミラはクルッと身体をスンスクの方に転がってキスをして来た。
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