スンスクの春恋(スンスク) 44
「先生・・・・私達を見放してしまうんですか?専門外だから紹介状だなんて・・・・・先の見える病気でも、お医者様というのは最後の最後までを診てくれるのじゃないですか?」
取り乱した事のないミラが声を荒げて、指が食い込むほど強く担当医の白衣を掴んだ。
スンスクはそんなミラをどう励ましていいのか判らない。
こんな時に、人生経験がなくてどうしたらいいのかすぐに対応が出来ない自分が歯がゆかった。
「医者ですから、見放したりはしませんよ。今の状況はそれほど深刻ではないですし、特に問題もありません。薬の副作用は多少はあると思いますが・・・・・・」
「それならどうして・・どうして・・・専門外って・・・・」
「判りませんか?」
担当医は深刻な顔をしてはいない。
深刻に考えているのはミラとスンスクだけだ。
「お二人は結婚されて一緒に住んでいらっしゃいますよね?」
医師はスンスクとミラに笑顔を向けた。
「結婚前・・・・そうですね・・・・ふた月ほど前の診察の時に、お二人が言った事を覚えていませんか?」
「私達が言った事・・・・・ですか?」
何を言ったのだろうかとミラとスンスクは顔を見合わせたが、すぐにスンスクはそれに気が付いた。
「本当ですか?」
「えっ?何が本当なの?」
「ミラ!僕達の子供を授かったのかも・・・・・・」
一瞬ハッとしてミラは心当たりを考えた。
「恐らくそうだと思いますよ。貧血とか吐き気とか食欲不振に微熱・・月のものが来なくなった・・・ミラさんがおっしゃった症状をお聞きすると・・・・・・専門外というのはそう言う事です。パランにパク先生という優秀な医師がいますので、そちらを受診する事をお勧めします。スンスクさんは、パク先生をご存知ですね?」
「はい、姉のスンハが尊敬しているパク先生で、僕たちの兄弟と父を取り上げてくださった方です。」
サラサラと紹介状を書いて封筒を封印してそれをスンスクに手渡した。
「お姉さんのスンハさんは血縁者なので担当が出来ないですが、パク先生なら事情も話しやすいでしょうしこちらも治療の連携も取りやすいので、一度診察をしてください。もし他の医師をご希望でしたらペク教授を通じてでも結構ですのでおっしゃってください。」
緊張した面持ちでスンスクはその封筒を両手で受け取ると、ミラの方を見て顔を高揚させていた。
「進行は気になりますが、薬の副作用の胎児への影響を考えて止めましょうね。その代り、筋肉量が落ちるのを防ぐためにリハビリはしっかりと、出来る限り体調がいい時は起きて動いてください。」
「ありがとうございました。」
診察室を出た二人は、声も出せない程に驚いていた。
「親になるんだ・・・・・ミラのお腹に赤ちゃんが・・・・・・」
「大丈夫かなぁ・・・・ドジな私がお母さんに・・・・・・」
「大丈夫だよ。うちのお母さんだってそそっかしいのに7人も子供を生んだんだよ・・・・・!」
口に出した事のなかったスンスクが、思わずハニの事をそそっかしいと言葉にした事で、二人はまた顔を見合わせてクスクスと笑った。
0コメント