スンスクの春恋(スンスク) 45
時間外の産科の受付前に、スンスクとミラの二人は並んで立った。
時間外という事で受付には誰の姿も見えず、呼び出しのベルが置かれていた。
どちらが押そうかと顔を見合わせていると、スンスクとミラは肩を後ろから叩かれた。
「どうしたの、お二人さん!」
「姉さん!」
「お義姉さん!」
スンハはニコニコと笑って二人の顔を覗き込んだ。
「何先生の所に行くの?」
「え・・えっと・・・その・・・・・」
「パク先生でしょ?」
スンハはミラの持っている封筒の宛名を見て顎で指した。
「パランで産科を紹介されるなら我が家はパク先生と決まっているからね。入り難いみたいだから、一緒に入ってあげようか?」
顔を赤くしてスンスクとミラは頷いた。
スンハが一緒に入ればミラも安心だろうが、スンスクはちょっと恥ずかしかった。
先に入ったスンハがパク先生に一言二言何かを言うと、パク先生は手に持っていたペンを机の上に置いて、若い二人を椅子の方に座るように示した。
「紹介状を見せてもらえるかしら?」
パク先生はスンスクの父が生まれる時から、一番下の双子たちが生まれる時と姉スンハの子供のインハが生まれる時に担当してくれた先生だ。
もう定年が近い年齢の先生だが、人当たりが良く患者からの人気もありパラン大でずっと現役で過ごしたいと残っている。
「あのスンジョちゃんに孫がまた生まれるのね。」
パク先生は紹介状に目を通しながら、優しい声でそう話した。
スンジョちゃん?
若い二人はパラン大医学部の教授で、家ではいつも難しい本を読んでいる父が、“ちゃん”づけで呼ばれているのだから、驚いた顔をする事は傍にいたスンハも想像ができた。
「ペク先生、検尿と採血の方をお願いね。看護師さんが帰ってしまったから。」
「はい、先生。」
ミラはもちろんスンスクも、医師として働いているスンハとこうして病院で会うのはなんだか気恥ずかしかった。
「トイレでこの検尿カップに取ったら、小さな窓を開けると銀トレイがあるからその上に置いてね。それからここにまた戻って来て。」
ペコンと頭を下げて、トイレの方に行くミラをスンスクは心配そうに見ていた。
「スンスクがお父さんになるのねぇ~スンリが先越されちゃったか。」
「姉さん・・・・・」
「でも、心配だよね。薬は飲まないといけないのに、妊娠中は飲めないから。」
冗談っぽく言っていても、本当はスンハが心配している事はスンスクもミラも判っていた。
二人で決めた事でも、初めて好きになった人の人生が決まっているからその人の夢を叶えようとしている事に力になってあげたい。
「でもね・・・完治した人もいるみたいだよ。日本だけど・・・・・・」
運がいい人は神様も見放したりしない。
それでも治療法が特にあるわけでもないから、あまり希望を持たないようにしている。
一分一秒でいいから、ミラと過ごす人生を良かったと思えるものにしたい。
そんな事を考えるとミラが戻って来て、スンハがミラの採血をした。
今でも不安が沢山あるけど、ミラと過ごした日々を諦めないで最後まで幸せでいようとスンスクはそう思った。
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