スンスクの春恋(スンスク) 46
「お母さんになるんだね」
「僕はお父さんか・・・・・・」
まだ平らなお腹を、若い二人は愛おしそうに触れていた。
スンスクはまだ19歳。
生活も親に頼らないといけない学生。
未来の見えないミラの為に不安ではあったが、少しでも望む事をしてあげたいと思った。
「階段は危ないからエレベーターにした方がいいのだろうか・・・・いや、エレベーターは空気が薄いかもしれない。負んぶして階段を下りた方がいいだろうか・・・・いや・・・・お腹を押さえるし、僕が階段から落ちたら大変だ。」
バコッ!
「いっ!」
頭に激痛を感じたスンスクは、後ろを振り向いた。
「姉さん!」
「エレベーターで酸素不足になるわけないでしょ。負んぶしてお腹を押さえる?私はこのお腹でも妊婦健診をしているし、何人も子供を取り上げたんだけどね・・・・・・スンスクはそんなに私を一度でも心配してくれたのかな?」
「だって・・・・・僕は産科医の知識はないから。」
「産科医の知識がなくても、子供が出来る事をしたんだから。スンスクの心配とは別に、ミラは筋力も弱って来ているから階段を使うよりエレベーターの方が安心ね。」
スンハは、父と同じくらいに冷静なスンスクのミラを過保護くらいに大切にしている様子が可笑しくて仕方がなかった。
そんな風に思う反面、まだ十代の弟が未来の見えない女性と結婚して親になる事を決心した事が誇らしく思えた。
「ミラ?」
「はい。」
「ご両親に連絡をした?」
「まだ・・です。お義父さんとお義母さんに報告をしてからと。」
「うちはいいわよ、どうせパク先生から父に伝わるんだから。実家のご両親に先に報告をした方がきっと喜ぶと思うよ。」
スンハに言われて、二人は病院を出てすぐにミラの実家に電話をした。
<もしもし?>
「母さん?ミラ・・・・・」
<元気にしてる?具合が悪くなったりしていない?そちらのご家族に迷惑をかけていない?>
「うん・・・あのね・・・・今日・・・貧血で病院に来たの。すごく怖くて・・・・スンスクと一緒に来たの。」
<!薬の副作用か、それとも悪化したの?>
ミラの母は、急な娘からの電話に不安になった。
「違うの・・・・・・薬の副作用じゃないし、悪化したのでもないの。あのね・・・・・私・・・・・・・お母さんになるの。」
<えっ?お母さんになるって・・・・・・・子供が出来たの?>
「うん・・・・・ごめんね。母さんに子供はダメってずっと言われていたのに、どうしてもお母さんになりたくて・・・ゴメンね。」
<いいよ・・・お母さんになっていいよ>
「いいの?」
<そちらのお母様にね、言われたの。大丈夫って・・・・・家族みんなでミラに赤ちゃんが出来たら守るからって。>
言葉にならなかった。
スンスクと二人で決めた事。
一つ一つ自分の夢を叶えてあげたいと言うスンスクがいるから、母の思いに逆らっても子供が欲しかった。
<そちらのご家族には知らせたのかい?>
「あの・・スンハお姉さんが病院にいる時で、母さんに先に知らせなさいって。」
<そうなの。でも、早く家に帰って知らせてあげなさい。きっと皆さん喜んでくれると思うよ。>
うんうんと頷くミラの目から流れる沢山の涙。
そのミラの涙を、スンスクは綺麗にアイロンが掛けられたハンカチでそっと拭いた。
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