スンスクの春恋(スンスク) 49
ミラは吐き気が治まるまで部屋のベッドで休んでいた。
ソラのウエディングドレスが届けられた時、初めて着た時に涙が出そうになった。
スンスクと結婚をしていなければ、きっとこんな事も思わなかったのかもしれない。
病気が発症しなければ、元婚約者ともしかしたら着ていたかもしれないウェディングドレス。
でもそれは後悔していない。
披露宴も何もなかったけれど、家族の前で指輪の交換をした。
スンスクだけではなく、ペク家の人たちは優しくてこんな自分を大切にしてくれる。
____コンコン・・・
ウトウトとしていると、誰かが部屋をノックした。
「・・・・・・・・どうぞ・・・」
静かにドアが開いて、スンミが入って来た。
「ミラ?具合はどう?」
「スンミ、大丈夫よ。」
「ツワリが始まっちゃったんですってね。」
初めはお互いぎこちなかったが、二人で話しをするようになってからは、時々一緒に買い物にも出かけていた。
「ええ、明日は大丈夫か心配になって・・・・・・」
スンミはかすかに微笑んだ。
「大丈夫よ。お姉ちゃんなんて、インハがお腹にいる時ツワリがすごく酷くて大変だったの。それなのにドレス選び・・・・あぁお姉ちゃんはアッパに結婚を認めてもらうために、計画的に妊娠したの・・・・・」
意外なペク家の秘密を聞いて、この家族は有名でもどこにでもある家族と同じだと思っていた。
「ドレス選びの時は、ピタッと吐き気も治まって、すごく楽しそうだったわ。お姉ちゃんに言わせると、<楽しいことを考えていれば大丈夫みたい。いくら好きなアッパでも、あの気難しそうな顔を見ると吐きそうになる時があるわ>ですって。」
顔を見合わせて、吹き出すようにして笑った。
二人が笑い出したら止まらない。
フッとスンミは悲しい顔をした。
「ツワリが酷くても、お姉ちゃんやミラが羨ましい・・・・・」
「どうして?」
「私はきっと結婚が出来ないと思うの。」
「お義父さんが可愛くて放さないって・・・・スンスクから聞いたわ。」
ニコッと笑うと目が垂れて、義理の母のハニとそっくりの顔になる。
「そう・・・私って兄弟の中で一番オンマに似ているからアッパがオンマが嫉妬するくらいに溺愛していたの。まだ3歳くらいの時だったかな?アッパが<スンミは絶対に結婚させたくないな>って言ったらしいの。でも本当は、私がオンマに似ているからだけじゃなくて、ここが悪いからなの・・・・・・」
スンミは心臓を指差した。
「心臓?」
「ええ、一日の水分量の決められているし、不足すれば熱が出る。バレエをやっていた時も、いつもアッパも付添ったの。勿論、あのアッパは絶対にお稽古場のある建物の中には入らないけれどね。習い事とかは普通はオンマが付き添うんだけど、オンマってアッパがいないと何も出来ないの。アッパはあの通り、子供が言うのも変だけどモテるのよ。」
判る気がする。
背は高くて整った顔立ちはとても綺麗だ。
「オンマの嫉妬は、子供でも呆れるほど。アッパはオンマだけしか見ていないのにね。バレエもずっと続けたかったけど、これ以上はもう無理だって・・・・・・・・後輩を指導するならいいから続けているけど、結婚して妻になっても、きっと具合が悪い日が多いだろうし、好きな人の子供が欲しくても生む事が命の危険を伴うって・・・・・・でも・・・私も普通の女の子と同じように結婚してお母さんになりたい。」
未来のない自分は結婚して母になる事が出来る。
スンミは心臓が悪いが、未来は続く。
どちらがいいのかは、誰にも判らないが、女の子の夢は誰も同じ。
「お付き合いしている人は・・・いるの?」
スンスクからは付き合っている人はいると聞いたが、スンミはミラが知っている事は知らない。
「どうかな?よく判らない・・・・・・・・ミラにだけ話すね。私はその人がずっと好きだったけど、その人とは結婚できないの。その人・・・・・結婚している人だから。奥さんも子供もいるの・・・・・・」
意外な事を聞いて、ミラの心臓はバクバクとしていた。
「スンスクには言わないでね。スンスクは真面目だから心配するから。スンスクが心配そうにするとアッパに判っちゃうと思うの。そうしたら、この家から出して貰えなくなっちゃう。」
悲しい顔をしていたスンミは、今度はまたお茶目な顔で笑っていた。
「明日の結婚式は、ミラも綺麗にしないとね。お顔のお手入れをしに来たの。オンマからお願いねって頼まれていたのよ。匂いもないし気持ち悪くならないと思うわ。」
色の白いスンミは羨ましい程にきれいな肌をしている。
細くて白い腕は、点滴の液漏れか紫色になっている。
スンミを見てミラは自分がどれだけ恵まれているのかが思い知らされた気がした。
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