スンスクの春恋(スンスク) 52
「お義母さん・・・・お義母さ・・・・・・」
ハニは泣いているミラをただ黙って抱きしめた。
「泣いていいんだよ。お母さんになる事も不安だものね。病気の事があっても、その気持ちは初めてお母さんになる人にしか分からないわよね。でもね、お母さんって強いの。どんなにお腹にいる時に辛くても、生まれてすぐに子供の顔を見ると、そんな辛い事も忘れちゃうよ。」
結婚する前からと比べても判るくらいに、ミラは痩せてしまっていた。
おまけにここ数日はツワリで食べては吐いている。
「私がお母さんになりたいなんて言ったから・・・・・・・・・私が死んだら、この子は寂しい思いをする事が判っているのに・・・・・お母さんが必要な時に傍にいてあげられなかったら・・・・」
フレグランスがほのかに香るハンカチで、ハニはミラの涙を拭いた。
「ミラ・・・・・・泣かないで・・・・・私のお母さんはね、私が小さい頃に亡くなったの。でもね、一度も寂しいと思った事もないとは言えないけど、寂しいとか悲しいとかそんな事を思うとお母さんは天国で困るだろうな・・・・・いつも笑っていればお母さんは天国で幸せになれる。そう思ってたんだよ。それはね、子供がお母さんのお腹にいる時にいつもお母さんがお腹の子供に笑顔でずっと話していてくれたからだって・・・・あとから父に聞いたの。」
「お腹の子供に笑顔でずっと話す・・・・・」
「そう、ずっと笑顔でいるっているのはとても難しい事だけど、人として生まれたのならきっと誰でも出来る事なの。」
「出来る事・・・・・私も出来るのかな?」
「出来るよ。でも一人だけ笑顔で話すのが苦手な人がいるわ。」
クスッとハニは笑った。
「出来ない人って・・・誰ですか?」
「判らないかなぁ・・・・・・我が家の気難し屋さん。」
気難し屋さんと言ってハニはまたクスクスッと笑った。
「お義父さん・・・・・ですか?」
「そう、スンジョ君だけは笑顔を作るのが難しいみたいなの。」
信じられないと言った顔のミラの気持ちも分かる。
病院での医師のスンジョも、大学の教授のスンジョも、父親としてのスンジョはいつも家族に優しい笑顔を向けている。
昔の冷たくて表情が読めないスンジョを知っている人なら驚くほど今は優しい表情をしている。
「スンスクは恥かしがり屋さんだけど、誰よりも家族思いの子供なの。きっとこれからもミラを大切にしてくれるわ。ミラも子供を残して・・・・なんて考えないでね。ミラの事はこのペク家の家族全員が守ってあげるから。ツワリもある程度は不安が薄れれば気にならないわ。吐きたい時は吐いて、子供がお母さんに自分の存在を知ってもらうためだと思うと、きっと頑張れるわ。」
ドアがノックされてスンハが点滴溶液を持って入って来た。
「家を出る前にこれを一本打てば、夜まで大丈夫だと思うわ。オンマよりも私が射した方が、痛くないから安心してね。」
「何を言うのよ、この子は。私はベテラン看護師なんだからね。」
明るい二人の掛け合いが、ミラの心を軽くした。
「さぁ、30分楽にしてね。ミラにはどうしてもスンリの結婚式に行ってもらいたいから。」
スンスクの姉の顔から、医師の顔になって点滴の準備をしているスンハは、何かを知っているような口ぶりだった。
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