あなたに逢いたくて 6
リビングのソファーに座っていたことは覚えていた。
「僕、お兄ちゃん待っていたんだ。」
目が覚めて、喉が渇いて何か飲もうとして部屋を出るとダイニングから、誰かが話している声が聞こえた。
ウンジョは、そっとダイニングが見える柵の隙間からリビングの様子を伺った。
知らない間に帰って来ていた兄が、ダイニングテーブルに肘をついて考え込んでいた。
いつも堂々として大きく見えていた尊敬する大好きな兄が、大変な問題を一人で抱え込んでいるのか、今日は泣いているように見えて、その身体が小さく見えて肩を震わせて泣いていた。
そんな兄を小柄なハニがそっと包み込むようにして後ろから抱きしめていた。
そこだけが時間の流れが止まったように、二人だけの空間は誰も入り込めないような温かな空気が漂っているようだった。
誰も近寄れない空気の二人だけの空間に背を向けて、ウンジョはまた部屋にそっと戻って行った。
どれくらい何も話さずにいたのか、スンジョとハニは向かい合って座っていた。
スンジョがカップを口に付けたとき、残っていた最後の一口のコーヒーはすっかり冷めていた。
「ハニ、明日早めに学校に行って休学届を出すよ・・・・・・結婚・・延びるかもしれない・・・・ゴメン。」
「いいよ・・・・・おじさんがこんな時だから、それにそんなに急ぐこともないから。スンジョ君も気にしないでね。叔母さんもおじさんに付き添わないといけないから、家の事は私に任せて!おばさんほど料理も上手じゃないし、手際も悪いけど頑張ってやるから。」
スンジョは、にっこりと笑って自分の顔を見て話すハニの顔に癒された。
ハニは初めて見た、不安そうな顔のスンジョの姿にショックを受けていた。
いつも堂々としているスンジョが、あまりにも哀しそうでこれから何か大変なことが起きてしまうようで、見えない不安な空気が気になってなかなか寝付けなかった。
たとえどんなことが起きても、私はスンジョ君のためならどんなことでも出来る。
私は、スンジョ君が疲れて帰って来た時、仕事で辛いことが有った時に家に帰って来たら、温かいご飯を用意して笑顔で<お帰り><お疲れ様>と言って迎えてあげよう。
結婚が遅れたって、いつかはスンジョ君のお嫁さんになれるのだから。
明日は良いことがありますように・・・・・
お休みスンジョ君。
次の朝、ハニは先に学校に出かけるスンジョを笑顔で送り出した。
スンジョは大学に休学届を提出して、そのまま父の経営する会社に出社した。
いつもは一緒に家を出ていたが、今日は一時間遅くにハニが学校に行くと、スンジョが休学したことがすでに噂になっていた。
いつもならどこかにスンジョ君の姿を探していたけど、今日からスンジョ君は探しても学校にいないんだと思うと、なんだか大学で一日頑張ろうという気持ちが起きてこない。
ニコニコと笑っているおじさんが倒れたことはショックだった。
パパとおじさんは同じ年だから、もしスンジョ君の立場が私だったら、と思ったらスンジョ君のように冷静に出来ただろうか。
私を育てるために男手ひとつでここまで来たのに、無理をして倒れたらスンジョ君のように私は冷静な判断で物事を考えたりすることは出来ない。
私はお客様に出せる料理も何はとてもできないから、おばあちゃんから引き継いだお店も畳まなきゃいけなくなっちゃう。
それよりも、兄妹もママもいないから一人ぼっちになるのはとても耐えられない。
そんな時に頼れなくても兄弟がいるのは良いよね、頑張ろうと言う気持ちが起きる。
だから、今日からは私がおばさんの代わりに家の事を守って、スンジョ君が疲れて帰って来た時にお帰りなさいと笑顔で迎えてあげないと。
後から、食堂に行ってジュングに夕食に私が作れる料理はないか、聞いて教えてもらおう。
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