スンスクの春恋(スンスク) 64
生れたばかりのわが子に初めての授乳。
小さな口で一生懸命に母の乳房に口を付けて吸っている姿に、ミラは嬉しくて涙が止まらなかった。
「お母さんになれた・・・ね・・・・信じられない。」
何も考えられない程に今の状況が夢のようで、自分の病気さえもミラは忘れたくなった。
幸せな表情でミレを見ているミラを、スンスクは複雑な思いで見ていた。
病気が判った時から結婚までは一年もなかった。
結婚して妊娠が判るまで数か月・・・ここで一年は経過している。
ミレが生まれた時点でほぼ二年。
早ければあと一年で、遅ければあと三年がミラの余命。
ミレを生んで意識の無かった時に、担当医と産科のパク先生と父と姉のスンハと、カンファレンスの時に聞かされた。
予定よりも早くなると。
ミラには言えない。
言えないけど、ミラの実家の両親には話した。
ミラのお父さんは『結婚して本人の願いである子供を考えてくれてありがとう』と言ってくれた。
ミラのお母さんは、ただ言葉もなく泣いていた。
覚悟をしていたけど、現実になると怖くてミレを考えなければよかったと思った。
「スンスク?」
「あっ・・・・ぼうっとしていた、何?」
「ミレが臭いんだけど・・・・・」
「く・・・臭い?」
我が子を持ち上げる事が出来ないミラの代わりに、スンスクはミレのお尻に鼻を付けた。
「ウンチ・・だ。待ってて、僕が換えるから。」
ミレをベビーベッドに移そうとした時、ミラはスンスクの服を引っ張った。
「オムツ、私が換えたい。手伝って。」
少しでも自分の手で子供の世話をしたい。
ミラも判っている。
ミレが生まれる前から、あまりいい状況ではない事を。
妊娠中は服薬できないし、授乳している間も服薬が出来ない。
担当医は生まれたらすぐに服薬を再開したいと言っていたが、ミラはそれを断った。
「お母さんになりたい。お母さんになったら自分の母乳で育てたい。」
これには大人しいスンスクも反対をした。
ミレの為にも少しでも長く生きていて欲しいと泣きながら訴えたが、ミラはそれでも母になったら自分の母乳で育てたい。
それをスンスクに自分がいなくなったら子供に伝えてほしい。
お母さんは、あなたにしてあげられる事は少ないけど、すごく大切にしたかったと伝えて。
と・・・・・
「オムツを換えたら眠っちゃったわ。」
「本当だ。」
一日一日がミラとスンスクには大切な時間だ。
「ミレって・・・・・どういう意味で付けたの?」
「えっ・・と・・ミラの未来はミレに伝えて・・幸せに過ごせるように。」
顔を赤くして言うスンスクの頬にミラはキスをした。
「ありがとうスンスク、大好きだよ。」
温かなミラの唇の感触は、一生スンスクは忘れない。
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