スンスクの春恋(スンスク) 65
お父さんがミラを自宅で過ごせるように色々と準備をしてくれた。
それでも自分の足で歩く事はもうできなくて、かなり大掛かりな工事になった。
ホームエレベーターにリフト付きバス。
普通の家では設置できない設備も、ミレの為に取り付けてくれた。
「あっぱ・・・おんまがよんでる。」
ミレはもうすぐ三歳になる。
最初の診断ではミラの命の期限はもうとっくに来ている。
「いい子だ、ミレは。」
僕は春からパラン高校の教壇に立つ事になったが、ミラと一緒に立てないことが寂しかった。
「ミラ、どうかした?」
「そ・・・・外・・・・・出たい・・・・・」
まだミラは自発的にしゃべる事は出来るが、一言一言がとても辛そうだ。
「起こすよ。」
ベッドの背を起こして、車椅子に移乗させる。
今はとても細くなって身体も羽が生えているように軽い。
ひざ掛けを掛けて、カーディガンを羽織らせると、ミレが傍に駆け寄ってくる。
ミレのその小さな手を握るのがミラの元気の元。
「そうだ、今度の授業はミラが僕に教えてくれた単元なんだ。」
「ひき・・だし・・に・・ある・・・」
「引き出しにある?その時の資料?」
車椅子の背もたれに預けてある頭がかすかに動く。
言葉は無くてもミラの目が僕に話してくれるから何も困らない。
この間、結婚して初めて喧嘩をした。
喧嘩をしたけど、会話を続ける事が出来ないから喧嘩にもならない。
「パク・・・せんせ・・・・・なんて・・・・」
「順調だって言ってた。」
一人だけの予定だったが、ミレの兄弟が欲しいとミラが言った時に喧嘩をした。
これ以上ミラに辛い思いをさせたくないし、命を縮めても子供なんていらなかった。
ミレがいればそれだけでよかった。
「あかちゃん、あかちゃん・・・・ミレが待ってるよ。」
ウッドテラスに出て風に当たりながら、庭木の新芽を見ているミラは幸せそうにしている。
「邪魔してもいいか?」
「じぃじ!」
ミレはお父さんが好きだ。お父さんもミレをすごく可愛がってくれる。
「ミレはジィジが好きだけど、バァバは好きじゃないの?」
お父さんがミレと一緒にいるとお母さんも出てくる。
お母さんはお父さんの指示でミラの病状もチェックしている。
ミラが二人目の子供を欲しがった時はお母さんも反対した。
スンスクの為にも一日でもいいから元気でいて欲しいと。
今でも思い出す、あの時のミラ。
「最後まで悔いの無いように生きたい」
口をうまく動かせなくて、それでも必死に言ったミラ。
その時にミレも弟が欲しいと一緒になって僕に頼み込んだ。
命の先が見えているこの時期に、無事に生むどころかそれまでミラが頑張れるのかのどちらかだった。
あの日記を見つけなければ、二人目は絶対に考えなかった。
枕の下に忍ばせてあったミラの日記は、全てを受け止めて生きている事が書かれていた。
0コメント