あなたに逢いたくて 8

スチャンの机の上の種類に目を一通り通すと、室長が社員の経歴を書いた書類を持って社長室に入って来た。

「開発が遅れる原因や、ソフトの売り上げが落ち込んだ原因は解りますか?」
スンジョの質問に、室長は一瞬ムッとした。
まだ学生で、会社の事情も知らない若造が・・・・と思ったのだろう。
「チャン室長は、何も知らない私にそんな事を言われて気分を害したと思います。思って頂いて結構です。何も知らないから判る事もあります。知っているから、問題点があっても気が付かない事もあります。」

確かにそうだ。

慣れてしまったら気が付かずそのまま物事が進んで行く。

室長はわずかな時間で人の心を読み取る事が出来るスンジョに、若いのに深い所まで解る能力がさすがにハンダイの社長の自慢の息子だと思い驚いた。
「そこで提案ですが、社員の皆さんのそれぞれの能力をもっと最大限に引き出すために、一度今の担当を考え直し、担当部所や役割を考え直してみてはどうですか?」
「役割分担を再考すると言う事ですか?」
「そうです。今、室長がこちらに見える前にガラス越しに開発室の社員の皆さんの様子を見ていたのですが、スナック菓子を食べながら雑談をしていては良い案も浮かばないと思います。ホンさんは美術担当と、この書類には書かれていますが、それはただ単に美術を学んだだけではないですか?彼のこの発想は美術と言うよりは広報に向いていると思います。」
スンジョは、チャン室長が持って来た書類と父の机の上にあったホンの報告書を見て担当の変更の話を持ち出した。

一人一人の役割を室長と話していると、開発室の社員の話し声が聞こえて来た。
ある者は結婚したばかり、ある者は子供がもうすぐ産まれると話をしていた。
経営状態が芳しくない時に社長が倒れ、この先会社がどうなるのか心配している話が聞こえて来た。
室長が、スンジョが開発室の会話を聞いている事に気が付くと、止めに行こうと立ち上がった。

「そのままで・・・社員が考えている事を聞かない会社は伸びません。ここでこうして室長と話をしながら、彼らの話も参考にして決めましょう。」

玩具メーカー大手のハンダイの社長自慢の息子の、若いがすぐれた能力がある事で自分の考えを押し付けず、従業員の会話から新しく会社を変える発想の為に聞いている姿に、社長代理ではあるが、この人と一緒に自分も新たな気持ちで、短い期間か長い期間か判らないが、現状を切り抜けようと決めた。


昼少し前に、午後のスケジュールの確認にコン秘書がスンジョの所に来た。
「スンジョさん、三時からいつも多額の融資してくださるオリエンタル銀行のユン会長との面会があったのですが、社長が入院されたので延期をしますか?」
「会いましょう。今は、私が社長の父の代理ですから。」
「かしこまりました。部屋の用意をしてまいります。」
スンジョはまだこの時はこれから自分の運命が大きく変わることになるということは知らなかった。

ユン会長は父スチャンやハニの父ギドンや知っている大人とは違いスンジョが初めて見るタイプの人だった。
どんな人でも、その人の目を見ただけで考えていることや性格を、スンジョは読み取ることが出来たが、ユン会長は他人に心を見透かされない独特の空気があった。
「君がスンジョ君だね。社長からよく聞いているよ、自慢の息子だと。」
「ありがとうございます。」
「ところで、社長の容体はどうだね?」
「はい、まだなんとも言えませんが、日頃の疲れもあるので、この際しっかりと休養してもらおうと思っています。」
初めて、父の会社で多額融資をして貰っている、会社の今後の運命を左右するくらいの力を持っているオリエント銀行の会長との面会に、緊張をしながら当たり障りのない話をしていた。父がいつもこんな風に、作り笑いをしながら相手の話を聞いていたのかと思うと、人とのコミュニケーションが苦手なスンジョには、ユン会長との会談が短くても苦痛な時間だった。

無事にユン会長との面会も終わり、社長室の椅子に座り座ってネクタイを緩めて大きく息を吐いた。
「ふぅーっ」
ふっと、机に目を移すと、携帯にメール着信を知らせるランプが点滅していた。

ハニか?・・・・・・
携帯を開くと待ち受けのハニがにっこりと笑ってブイサインをしてこちらを見ていた。

<スンジョ君、お疲れ様。今日の帰りは何時になりますか?おいしい夕ご飯を作って待っているからね。    ハニ♥>

まるで新婚ゴッコだな。
でも、もう少し待っていろよ。新婚ゴッコから本当の新婚になるまでオレは親父の会社で仕事を頑張るからハニは勉強に専念して、絶対に留年なんかするなよ。

ハニに返信をしようとした時に、部屋をノックされた。
「どうぞ。」
妙に嬉しそうな顔をしてコン秘書が入ってきた。
「初めてのユン会長はどうでしたか?」
「ええ・・・少し緊張しましたが・・・何か?」
「ユン会長が、スンジョさんを随分とお気に入りになられたようで、今度ご自慢の孫娘さんと一緒に会食をしたいと言われまして。」

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ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

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