あなたに逢いたくて 9
「それは、お見合いと言う事ですか?」
「・・・・まあ・・何と言っていいのか・・」
言いにくそうにしているコン秘書の顔を見ていると、これがよく聞く融資をチラつかせての政略結婚だと判った。
融資をする代わりに、自分の身内か知り合いの娘を紹介して、いずれは吸収合併をする。
世の中の裏の黒い部分を実際に体験していると思うと、無邪気な子供のように笑うハニの顔が脳裏に浮かんだ。
「会社の為に、ユン会長の孫娘さんと会食をした方がいいと言う事ですよね。」
「そういう訳ではありませんが、先日来社された時にスンジョさんの考えを随分とお気に召されて、会長もスンジョさんに決まった女性がいらっしゃるのでしたらお断りしても構わないとおっしゃられて。」
スンジョは、胸が苦しかった。
ハニと結婚すると決めて、ギドンに正式に結婚を前提に付き合う事を話し了承を得たばかり。
母グミも、溺愛しているハニを嫁に迎える日が来ると言って、父の付添の合間に以前よりも頻繁にハニに電話をしていた。
それからまだ数日しか経っていない。
見合いをすれば、ハニとの関係も終わらせないといけない。
結婚の意思を固めて、ギドンとグミに話したあの時と今は状況が変わってしまった。
今朝、自分を送り出した時のハニの笑顔を思い出すと胸が締め付けられた。
「時間を・・・・ユン会長との会食の時間を決めてください。」
コン秘書にそう告げると、何かが音を立てて崩れていくようだった。
ひとりで社長室で資料に目を通し決裁印を押印しながら、社員や下請け子会社の資料を思い出し、300人はいるだろう関連する人立ちの生活が自分の肩にのしかかっていることを実感した
完成が耳に聞こえて顔を上げて開発室を見ると、チャン室長がスンジョの提案の人事について説明していた。
専門分野から外されたり、意外な担当になったといって驚く者。
人の良い父が社員に無理をさせないでいたことが、父だけではなく会社や社員にもよくなかった。それでも、人事異動に驚いた人たちも心機一転、社長が不在な時に自分達で何とかしようという声も硝子越しに聞こえた。
すっかり薄暗くなって帰宅して玄関のドアを開けると、ハニとウンジョが先を争うようにスンジョを出迎えた。
「ウンジョ君、私の勝ちよ。」
ハニが誇らしげに笑ってスンジョのカバンと上着を受け取った。
「ちぇっ!バカなくせに動きは素早いんだから。明日は絶対に負けないからな。」
見合いの話があったことを知らないハニとウンジョが自分を取り合って勝ったと言って喜んでいる無邪気な顔が眩しくて、胸が痛んだ。
「今日は、何を作ったんだ?随分見かけはいいみたいだけど。」
ハニはスンジョの言葉に嬉しそうに笑っていた。
「里芋の煮っ転がしと豆のサラダ・・・・・ミソチゲ。自信作なの・・・食べて。」
機体はしていなかったが、思った通りに里芋が生煮えで豆は硬くて食べられそうになかった。
ウンジョは、ブツブツと言いながら生煮えの里芋のハイっていた食器を横に押し出した。
「お兄ちゃん!火が通っていないよ。お腹壊すよ。お兄ちゃん!」
ハニは自分が食べても、まずくて食べられず食べないでと言っても、スンジョは顔色も変えずに黙って食べ続けた。
こんなに心を込めて作った食事と、賑やかで楽しい食卓は、もうすぐに遠い記憶になるのかと思うと生であろうともハニの手料理が嬉しかった。
「よく噛めば食べられる。」
いつもは賑やかなペク家も、今日はハニとウンジョもスンジョの様子で、いつもと何か違うと思ったのか無言で夕食を食べていた。
ハニとウンジョが眠り、グミは病院に泊まり込み、ギドンがまだ帰宅しない静かなペク家で、スンジョが思いつめた様にフリースペースのソファーに座り、思いつめたような顔で開け放たれた窓から見える星空を眺めていた。
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