スンスクの春恋(スンスク) 69
「アッパ、抱っこ」
「ダメだよ、今からジィジとお話があるから。」
ミレのように母の記憶が残っているのとは違い、フィマンは母の記憶がないからか家族が甘やかしすぎているところがある。
部屋の中はまだミラのいた頃と何も変えていないが、ただ変わったのは子供たちのベッドと机を、この部屋から子供部屋に移動した事。
車椅子もミラが使っていたリクライニングベッドもまだそのまま。
クローゼットに残ったまま、一度も袖を通していない服や思い出のあるミラの服を見ると、会いたくて仕方がない。
僕だけが時間に取り残されている気がする。
リビングを通ってダイニングを見ると、思った通りお母さんの姿もなく、おばあちゃんが僕とミレとフィマンに夕食を食べさせていた。
お父さんの書斎のドアをノックするとすぐに返事が聞こえた。
「入りなさい。」
ドアを開けると、両親の他に別の人が二人いる事に気が付いた。
「お義母さん・・・・ご無沙汰しています。」
「お久しぶりね。ミレもフィマンも元気そうで、今度うちに来てくださいね。主人もあなた達に逢いたがっていたわ。」
お義母さんの横に座っていた女性が頭を下げた。
「初めまして。」
やっぱり・・・・・
何度も自分の両親とミラの両親にも断っていたが、こうも強行突破されるとさすがの僕も怒りたくなる。
「ミラのお父さんの取引先のお嬢さんだ。スンスクの事情もよく判っているし、年もスンスクより三つ下の24歳。」
「僕は、再婚はしません。」
「スンスク、もう娘の事は忘れて・・・・・娘もあなたの再婚をきっと喜んでくれるわ。まだ27歳で二人の子供にも母親が必要だと思うの。」
「子供たちの母親も僕の妻もミラ以外考えられません。すみません。」
___バシッ!!
いきなりハニにスンスクはお尻を叩かれた。
母がこんな事をするのは初めてだが、母の悲しそうな顔が何とも言えないくらいにミラに似ていた。
「いつまでも過去を見ていてはダメ。前に進めないのはスンスクだけでしょ。ミラも泣いているわよ。」
ミラにあまりにも似ていて、僕の心は余計にミラに会いたくて泣きたくなった。
「それとね、ミレもフィマンも、この女性(ひと)と数回会っているのよ。」
「お母さん・・・・・子供をダシに使うつもりですか?酷いじゃないですか。テストの採点がありますから・・・・・」
ミラのお母さんに悪い気もしたし、お父さんが怒っているのが判っていた。
僕の性格がお父さんは自分とお母さんと似ていると言っていましたよね。
この頑固な性格はお父さんとお母さんと二人分ですからね、そう簡単に気持ちを変えませんから。
どんなにお父さんに叱られても、絶対に再婚はしませんから。
部屋に閉じこもって採点をする振りをして、僕はミラの最後に着ていた残り香なんてもう消えているパジャマに顔をうずめていた。
「ミラ・・・・・判っているよ。自分だけの事を考えるのじゃなく、子供たちの事も考えないといけないって。でも、ミラが忘れられない。ミラしか好きになれないから、他の人とは一緒に暮らせないよ。子供たちがいなかったら、僕もミラの所に行きたい・・・・・・・」
肩の温かい感触で、僕は顔を上げた。
「スンスク、あなたの気持ちもわかるけど、前を向いて進まないと・・・・一度でいいから、あの女性(ひと)を、お食事にでも誘ったら?」
「ミラ・・・・・・ダメだよ。僕はミラ以外の人が隣にいても、幸せだと思えないから。」
ミラに抱き付くと、温かかった。
まるでそこにミラが立っているかのようで・・・・・・・
0コメント