スンスクの春恋(スンスク) 70
スンスクがミラを抱きしめると、頭をまるで子供にするように優しく撫ぜられた。
「一緒だね・・・・・お母さんと。」
えっ?
もう4年も前に亡くなったミラが温かいはずがない。
「お・・・お母さん・・・・・」
ハニは夕食も食べずに部屋に籠ったスンスクに、温め直した食事を運んで来たのだった。
「お母さんもね、お父さん以外の人は好きになれないから、スンスクの気持ちは判るわ。あっ!ククスのおじいちゃんもおばあちゃんを亡くしてもずっと再婚しなかったから・・・・・・オ家の血筋ね。ほら、話はここまででいいけど、ご飯だけは食べてね。ミラのお母さんはさっき帰られたけど、スンスクの言った事は気にしないでって。」
お母さんはいつも僕に優しく笑いかけてくれる。
その笑顔を見ると、ミラを思い出してしまう。
「無理にとは言わないけど、一度会ってお話だけしてくれる?スンスクの為じゃなく、ミレはミラの記憶はあるけど、フィマンは一度も抱いてもらった事もなければ母親のオッパイを貰った事もない子よ。まだ小さいし、母親が傍にいて欲しい時期だと思うの。自分の為じゃなくて、子供の為に・・・考えておいてね。彼女、ちょっとミラに似ていると思わない?」
お母さんの考えも判ります。
でも、もう少しミラの事を考えて生きて行きたいです。
スンスクは食べ終わった食器を持ち、キッチンで食器を洗っていると誰かが来た事に気が付いた。
「お父さん・・・・・」
スンジョは怒っている風でもなく、何も言う事なく傍に座るようにスンスクを呼び寄せた。
「スンスクも頑固だな。」
「お父さんの息子ですから・・・・・・」
こんな言葉が出るとは自分自身思いもよらなかったが、父と面と向かって話す時に今でも緊張する。
「いや・・・・お母さんに似ているよ。でも・・・そんなお母さんが好きだけどな。」
スンジョは子供たちの前でもハニが好きだといつも言っていた。
昔のスンジョを知っている人がいれば、人前でそんな言葉が出る事に驚くに違いない。
「お母さんは知らないと思うけど、お父さんはお母さん以外を好きになった事がないから、スンスクの気持ちは判る。スンスクもスンリみたいに平気で女の人と話が出来るようになればいいけどな・・・・・・」
スンリはソラと結婚して一人娘がいても、男ばかりの一泊の研修だと言ってはよく家を空けるが、あとから女性も交じっている事を一度でもなく何度も嘘を吐いてバレては喧嘩をしている。
別に浮気でもないのに嘘を吐くから、その都度ソラの父親ギョンスから家を追い出されては実家に逃げ込んでいた。
「亡くなった人は戻らないが、スンスクがそんな風に前に進まなければミラもきっと悲しむ。でも、お父さんもお前と同じようにお母さんが先に亡くなったら、再婚はしないな。だけど、今のスンスクは病気を知っているのにどうしても結婚をしたいと言った時のように立派だとは思えない。子供が成長する年数時間は過ぎている。いつまでも前に進まないでいると、何も解決はしない。ミラのご両親も娘婿にお見合いの話を持って来るのはきっと複雑だと思う。ミラがフィマンに自分の夢を託したのなら、お前が子供たちと笑って過ごさないと・・・・・今日もまた、ミラの事を思って泣いていたんだろ?」
「お父さん・・・・・・」
「自分の運命を受け入れて生きたミラに恥ずかしいと思わないとな。」
スンジョは4年も経っても立ち直れない息子に、自分の気持ちを含めて話をした。
多分初めてだろう、二人だけで話した事は今まではなかった。
「採点は終わったのか?」
「あと少しです。」
「頑張れよ。」
「はい。」
スンスクにとっての父スンジョは憧れであり理想の父親だった。
容姿が両親に似ていないと悩んでいた時期もあった。
ミレが生まれてミラの代わりに一緒に遊ぶためにダイエットをして、随分と痩せたスンスクは誰が見てもスンジョの息子だと思うくらいに優しい顔をしている。
「頑張るよ、ミラを忘れる事なんてできないけど、お義母さんが連れて来た人に一度会ってみるよ。」
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