スンスクの春恋(スンスク) 73
「あなた、ホン・ミラ・・・って言うの?」
「そうだけど・・・・」
名前だけじゃなくて、どこか小さい頃に亡くなった記憶の中の母の顔と似ていた。
写真でしかほとんど記憶がない母の顔は、病院のベッドでの写真が多い。
一番記憶の中に残っている母は、自宅のベッドで祖母に看護され父に看病され、ミレの顔を見て言葉がはっきりと話す事が出来ず、やっと発した声でミレの名前を読んで涙を流していた。
フィマンがお腹にいる時は、父と母の眼だけの会話の静かな両親の部屋。
写真の中のベッドの上で笑っている顔は、父方の祖母のグミに父と写真を一緒に撮ってもらった時。
「ゴメンなさい。母の名前と同じで・・・・思い出しちゃた・・・」
「思い出した?」
「私の母、幼稚園に入る時に亡くなったの。だから思い出して・・・・・」
初めて会ったホン・ミラが母を思い出して、ミレは涙が流れて来た。
家で泣けば、母に似たミレを見て父が泣くから、幼い時から決して家でも泣く事はしなかった。
父と母との出会いはパラン高校、としか大人たちからは聞かされていない。
成長するにつれて気が付いた事は、母が22歳で父が18歳の時に結婚をしている事。
「ホン・ミラさん・・・は、私と同じクラスね。多分担任はペク・スンスク先生よ。」
「よかった!同じ中学から来た人たちは、みんな7クラスがいいと言っていたけど。」
「どうして?」
「知らないの?外部の人たちは知っているのだけど、伝説のカップルの話。1クラスの天才が7クラスのおバカな女の子と結婚をしたって・・・・私はそう言うのは興味がなくて。」
それって・・・・・
「それって、1クラスの天才ペク・スンジョと7クラスのおバカのオ・ハニの事?」
「そう・・・内部の人も知っているのね。」
「知っているもいないも、その二人は私の祖父母の話だから・・・・・
ミレは不思議な気がした。
ホン・ミラのほんわかとした話し方が、小さい頃に父との出会いや父への思いを語っていた母の話し方と似ていた。
「もう行かないと・・・ついでに言っておくわね。担任は私の父なの。本当は親が子供のクラスを教える事はいけないのだけど、うちの場合は例外みたい。両親も両親の弟夫婦も叔父叔母たちもみんなパラン出身だから。」
ミレの記憶にある母よりは若くて元気なのに、ホン・ミラと話をしていると、話がしたかった母と重なって見えた。
ホン・ミラの後に母が自分を見てほほ笑んでいる姿を見たのはその時だった。
お母さん、大丈夫だよ。
お父さんは今もお母さんが大好きで、私もお母さんが大好き。
フィマンは、今反抗期で大変だけど、元気に暮らしているから。
私がお父さんとフィマンを守って行くから。
心で話しても、母は何も言ってくれない。
ただ笑ってこちらを見ているだけ。
ミレが覚えている母の声は、全身の力を振り絞っていた、ミレだけに話した言葉。
「スンスクと離れたくない、死にたくない・・・・生きたい。ずっとスンスクと一緒に暮らしたい。」
フィマンが生まれる前に、話す事も出来ないくらい体調は悪かったのに、母の汗を拭いている時に聞こえた母の心の叫び。
0コメント