スンスクの春恋(スンスク) 74
入学式に参列している生徒や保護者達は、新入生代表の挨拶をペク・ミレがする事に誰もが納得をしていた。
母親の代わりに祖母のハニと祖父のスンジョが式典会場である講堂に入ると、一斉に視線はそちらに向けられた。
保護者達も年齢を重ねても変わらないスンジョの美しさにウットリした視線を向け、ハニに対しては昔とは違って嫉妬ではなく羨ましそうな目で見るだけだった。
スンジョとハニが保護者席に着席して、暫くすると入学式典が始まった。
ペク家の子供が高校に入学をすると必ずと言ってもいいほど、ペク家の子供が新入生代表の挨拶を完璧にしていた。
双子のスングとスアはふたりで一緒にひな壇に堂々と上がったが、新入生代表の挨拶はただひとりを覗いて・・・・
「はぁ~」
「ため息を吐くな。式典の最中だ。」
「スンギは、緊張のあまり声が震えていたわよね。あの子は成績は良くないのに、スンジョ君の息子と言うだけで・・・・・緊張して一週間前からお腹は壊すし、入学式の後に熱を出すし・・・・」
「髪の毛に桜の花びらが付いている・・・・・・・」
スンジョがハニの髪の毛に付いている桜の花びらを取る姿に、保護者席にいる母親たちがスンジョのその妻に対する行動に、ウットリとしていた。
「私たちよりも年上なのに・・・・ペク教授と奥様は新婚みたいに仲がよくて素敵ね。」
そんな言葉がスンジョ達には聞こえる事はないが、スンジョのそう言った行動ひとつにもまだ視線が集まる。
「桜の花びらは、お母さんだって・・・・・ミレが言っていたの。幼稚園の入園式の最中にミレが息を引き取った時も、桜の花びらが窓の隙間から入って来たの。高校生になったミレを見たくて、ミラが来たのかな?」
「そうだな・・・・・・スンスクとミラが出会ったのもこの高校。オレ達は歳を取っただけで、スンスクは一人でよく二人の子供を育てたよ。」
「スンスクはまだ若いのだし、再婚をして第二の幸せを見つけてくれればいいのに。親はいつまでも元気でいるとは限らないのに・・・・」
「そうだな・・・アイツの心にミラがまだ生きているから・・・・・・・さすが、オ・ハニの息子だ。」
「嬉しいのだか・・・・よく判らない。」
式典が終わり新入生たちは起立をして、上級生の誘導で教室に移動し始めた。
スンジョとハニを見つけて、ミレが手を振ると桜の花びらがまた一枚どこからか入って来た。
「あら?」
「どうした?」
「ミレの後ろにいる女の子・・・・・・ミラに似ている。」
「気の所為だろ?オレはこのまま大学の方に行かないといけないから、病院の方に行ってお袋の薬を貰って先に家に帰ってくれるか?」
「帰りは遅くなるの?」
「早く帰るよ。スンスクの見合いの返事をもう少し待ってもらうから。」
ハニはスンジョと別れて、ひとりで懐かしいパラン高校を眺めながら、パラン高校の校門に向かって歩いていた。
お義母さん・・・・・・
風の音のような囁き声に振り向くと誰もいなかった。
満開に咲いた桜の枝が、さわさわと音を立てて揺れていた。
「歳の所為ね・・・・・」
空耳だと思い、またハニは歩き始めた。
お義母さん、スンスクを幸せにしてあげて・・・・・
またさっきと同じ声が聞こえた。
12年前に亡くなったミラの声だとハニは気が付いた。
ミラの声はミレが生まれてからは、うめくような苦しい声しか聞く事はなかったが、鳥の囀りのような声だとスンスクは言っていた。
「歳の所為じゃないわね。ミラもミレが高校生になったから嬉しいのよね。」
風に乗って桜の花びらが一枚二枚とハニの髪に舞い降りた。
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