スンスクの春恋(スンスク) 76
「お姉ちゃんは、お母さんに抱いてもらった事はあるけど僕は知らない。なぜなら、僕がお母さんを死なせてしまったから。だから、お父さんは僕の事をいつも怒るんだ。」
「フィマン・・・・」
中学生になったとはいえフィマンはまだ13歳の子供。
家族が母親の記憶がないフィマンを不憫に思い、フィマンを生む事を決意したミラの話は、口にしないようにしていた。
「僕が生まれなければ・・・・」
ハニにはフィマンに言えなかった。
フィマンを生みたいと言った時の、スンスクとミラの初めての喧嘩の事。
フィマンを生む事で、ミラの寿命が縮まるのを解っていた事を耐えていたスンスクの苦しむ姿に、何も手助けをする事が出来なかった後悔。
ミラが命と引き換えにした意味は、ハニにはどう伝えていいのかも分からなかった。
「お母さんの病気の事は、おじいちゃんに聞いてみないと、おばあちゃんは詳しくは話せないけど、お母さんはあなたを抱く事を出来なかった事は辛かったと思うよ。フィマンの名前は希望・・でしょ?お願いだから、自分を傷付けないで。」
まだ小柄なフィマンを、ハニは涙を流して抱きしめた。
幼い頃に母を亡くしたハニだから、母がいない辛さは誰よりもわかるし、誰にも母の代わりが出来ない事は分かる。
グミが自分を娘の様に可愛がってくれても、母には適う事は出来ない。
「フィマン・・・・お母さんがいたらいいなと思った事はある?」
「判らない・・・・従兄妹たちがお母さんと一緒に来ると羨ましいと思った事もあるけど、お母さんの顔は写真でしか知らないから・・・判らない。」
「おばあちゃんや、グミおばあちゃんではお母さんの代わりにはなれないね。フィマンがお母さんを知らないから、おばあちゃんは一生懸命にお母さんの代わりをしたけど・・・」
「おばあちゃん・・・・」
ハニは可哀想なフィマンを更に強く抱きしめて声を上げて泣き出した。
いつもスンスクに甘えていた小さなフィマンは、わがままを言った事がなかったが、自分で自分を抑えていたのだろう。
中学生になれば、事実とは違う事を聞いて面白おかしくからかう人もいるだろう。
甘えん坊でスンスクが一生懸命に面倒を見ていた姿は、つい最近のような気がしていたが、気が付けばフィマンはもう中学生。
よく話をしていた子供でも、この年齢になると口数も少なくなる。
スンスクもきっと、母がいない分一生懸命に寂しがらせない様に、休日の日には手作りのお弁当を持って子供たちとよく出かけていた。
祖母が母の代わりをする事は出来ないし、父親が母親の代わりをする事は出来ない。
フィマンの他人によって傷つけられた心の傷を治すのは、母親がいないのであれば誰がしてあげるのだろう。
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