スンスクの春恋(スンスク) 82
「フィマン、いつかお母さんがどうしてお前を産んだのか教えてあげるよ。」
「お父さん・・・・」
同年齢の生徒よりも小柄なフィマンにそう言うと、スンスクは家を出た。
フィマンは父から聞かされる母が自分を産んだ時の事を聞く不安はあったが、小さい時から知りたかった母の事を少しでも知る事が嬉しくもあった。
「おばあちゃん、おじいちゃん・・・・・お父さんがお母さんの事を話してくれるって。写真でしか知らないお母さんの事をいつか話してくれるって。」
嬉しそうにそう言って、小学校の時のように元気な顔で朝食を食べ始めた。
ミレが学校に行くために玄関に行くと、フィマンもその後に続いて玄関に行き二人が揃ってドアを開けて何かを話しながら学校に行った。
「スンスクが、何かを決める時が来たのかもしれないな。」
「何かを?お見合いをさせるの?」
「それはもう少し待つよ。アイツはミラが初恋だったからな・・・初恋は男にとっても女にとっても大切な思い出だろ?」
「スンジョ君の初恋って?」
「お前しかいないだろ?お前もそうだろ?」
「え!あっ・・・・その・・・・・」
ハニは言葉を詰まらせて、スンジョに背中を向けて朝食の片付けを始めた。
「違うのか?」
「どうなのかな・・・・・・ママが入院している時に銀杏の木の下で会った男の子が、初恋だと思う・・・・・」
「ショックだな・・・オレの初恋はハニだったのに。で・・・・どんな男の子だったんだ?」
聞こえないくらいの小さな声で、何かを言っているハニの背後にスンジョは立って、その独り言のような言葉を聞いていた。
「いつも絵のついていない絵本を読んでいた男の子・・・・・・・パラン幼稚園だって言っていた。」
スンジョはクスッと笑って、ハニを後ろから抱きしめた。
「ダメだよ・・・・片付けが終わったら、お母さんに朝食を持って行かないと・・・・・」
「その男の子って・・・・オレだよ。」
桜の花が咲くこの時期は、ミラを思い出す。
ミレの幼稚園の入園式のあの日も、今日のような桜の花が満開で雲一つない青空の澄んだ日だった。
「校門締めるぞぉ~。」
授業15分前になると、校門の扉を閉める。
スンスクと生活指導の教員が、今日の当番で校門の前に立っていた。
「あ~待ってください。」
高校一年のクラスバッチを付けた髪の長い女の子が走って来た。
あの子は、僕のクラスの生徒だ。
「待てないぞぉ~」
生活指導の教員はメガホンでその生徒に向かって叫んでいた。
予鈴が鳴り始めるのと同時に生活指導の教員が扉を閉めようとした。
「先生、あの生徒は私のクラスの生徒です。もう少し待っていただけますか?」
「1クラスの生徒なら待とうか・・・・」
1クラスだけは特別待遇だ。
遅刻をしても、勉強を夜遅くまで起きていたからだとして学校はそう判断していた。
「間に合った・・・・・キャッ!」
「危ない・・・」
その生徒は何かに躓いて転びそうになり、スンスクに支えられた。
「ペク先生、一応理由を聞いてくださいね。日誌に遅刻した生徒の名前を書かないといけないので。」
生活指導の教員は、門の扉を閉めて鍵を掛けた。
「すみません、寝坊しました。1年1クラスのホン・ミラです。」
ホン・ミラ・・・・
名前は同姓同名で、今までもミラと言う名前の生徒はいたが、顔を上げたその生徒はスンスクが愛した最愛の妻のミラと見間違うくらいに似ているように見えた。
「先生・・・・先生の娘のミレと同じクラスです。」
その生徒はミラとは違って、若くてピンク色の頬で元気だった。
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