あなたに逢いたくて 12
「ん・・・・お兄ちゃん、もう帰って来たのかな?」
ウンジョはリビングから聞こえて来る話し声で目が覚めた。
「喉が渇いたな。お水を飲んでこよう。」
静かに部屋を出ると、ハニの泣き声が聞こえて来た。
何だか下に降りて行ってはいけないような、躊躇するような内容の話が聞こえてきた。
スンジョとグミが、スチャンが倒れた日にスンンジョがハニと結婚するという話をしていたことを聞いていたが、今聞こえて来る話は会社のためにハニではなく別の女の人とお金のために結婚するという話が聞こえて来た。
それを聞いてウンジョは、子供では理解が出来ない大人の事情があるのだと思うとなぜだかショックだった。
下に降りるのをやめて、そのまま部屋に戻りベッドの端に腰掛けた。
「お兄ちゃん・・・・・酷いよ・・・・・ハニが可哀想だと。ずっとお兄ちゃんのことが好きなのに・・・・いつもお兄ちゃんにからかわれたり意地悪されても、バカみたいに笑ってずっと思ってたのに・・・それなのに・・・・・それにお兄ちゃんも好きだよね。結婚するって言う話を、ママとしていたのを聞いたから。」
スンジョのお見合いの話を聞いて、ウンジョは自分の耳が信じられなかった。
大好きな兄が結婚を考えていた人じゃない人と結婚するのが・・・・・。
それもお金のために・・・愛の無い結婚をする事を。
「ウンジョ、起きていたのか?早く寝ないと明日の朝起きれないぞ。」
スンジョは上着を脱ぎながらウォークインに向かった。
「お兄ちゃん・・・・結婚するの?ハニじゃない人と・・・・・・・」
「ああ・・・・多分そうなると思う。」
スンジョはウンジョに顔を見せることが出来なかった。
とても今の自分の顔は、弟に見せるほど良い人といえる表情ではない。
「お兄ちゃん・・・ハニのこと好きなんだよね。大人になると好きな女の子と違う人とでも結婚できるの?僕は出来ないよ・・・・・・そんな事。僕が・・・・・僕がもっと大きかったら・・・・」
「ウンジョは何も気にしなくて良いから。」
そのままウォークインに入り、ジャケットをハンガーにかけるとウンジョが怒鳴る声が聞こえた。
「お兄ちゃんなんか嫌いだ!好きな女の子を泣かせるなんて最低だ!僕知ってるも・・・・ハニが時々お兄ちゃんのマンションに泊まって来てたの・・・・・それに、お兄ちゃんが家に来たとき・・・ハニとキスしてたのも知っている・・・・・それなのに・・・・・大っ嫌いだ!!好きな女の子を泣かせて・・・僕が大人だったらハニと結婚してあげられるのに・・・・・・」
「酷いよな、お兄ちゃん・・・・・ウンジョは好きな女の子が出来たら、大切にするんだよ。」
スンジョは着替えを持って、部屋を出てバスルームに行った。
少し低めのシャワーをかけて、自分のハニへの思いを封じ込めようとした。
それでも、数日前にハニと触れ合った感触を、忘れることが出来ず、罪悪感が溢れて胸が締め付けられた。
濡れた髪の毛を拭きながら、そっとハニの部屋のドアを開けた。
ハニの華奢な肩が震えて、押し殺すように泣いている声が、結婚を考えていたスンジョへの諦めきれない思いが伝わってくるようだった。
「ハニ・・・・ゴメン・・・・社員のことを大切にしていた親父だから・・・会社を立て直したい。ハニにした事は最低だよ。どんな償いでもするよ、ハニに許してもらえるとは言わないけど・・・ハニへの思いは真剣だった。身体の関係まで持って、いくら会社のためとはいえ、お金の為にあっさりと捨てた形になったけど、弄ぶつもりはなかった。」
「・・・・・たくない・・・・」
ハニの震える様な小さな声が聞こえた。
「えっ?」
「見たくない・・・・スンジョ君が私以外の女の人と一緒にいるところ・・・・・・」
「ゴメン・・・ハニ・・・・・・」
スンジョがハニに触れようとした瞬間、拒絶するように布団をかぶって泣き出した。
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