スンスクの春恋(スンスク) 87

夢見心地に鼻歌を歌いながら、ミラは門の扉を開けた。

ペク家の立派な門扉と違い、勢いよく開ければ外れてしまうし、かといって静かに開けるのが出来ないくらいに今にもはずれそうな蝶番(ちょうつがい)が付いていた。

貧しい家でも、母と二人で暮らした16年間、一度も父親がいて欲しいと思わなかったわけではない。

どうして母子家庭なのかと、母に聞いた事があったが、母は何も言ってくれなかった。

でも、なんとなく判っていた。

自分の父親は多分あの人で、別の家庭があるのだと。

父親だと思う人が家に来る時は、数日前から母が幸せそうにしていたし、その人はその夜には母の部屋で同じ布団で眠っていた。

パランに行くのはその男の人の希望なのに、母はミラが他の子供に馬鹿にされたりしない様に、出来る限りの事はしてくれるが、母がどんな思いをして仕事をしているのか判っているから贅沢はしない様にしていた。

「ただいま。」

「お帰り・・・・楽しかった?」

「うん・・・おじさん、今日来ているの?」

「お風呂にね・・・入ったら帰るって・・・」

お母さんの頬が赤らんでいる。

私が家にいない時に、おじさんと二人で楽しい時間を過ごしていたんだ。

「ねぇ・・・おじさんの事・・・・」

聞きたかった、聞きたかったけど聞いたらお母さんが泣くから聞けない。

おじさんと思う様にしていてもあの男(ひと)は、私にも優しい顔を向けてくれるから嫌いになれない。

「おじさんの事?」

「何でもない・・・着替えて来るね。」

母親がいないミレと、父親のいない私は、環境が似ているようで全く違う。

ミレのお母さんは、病気で死んだけど、優しいおばあさんとおじいさんに大おばあさんも一緒に住んでいて、夕食は楽しそうだった。

ミレのお父さん・・・・・いいな、ペク先生は優しくてまじめで・・・・凄く素敵で・・・・

部屋の外から母にお風呂が空いた事を告げられると、ミラは着替えを持って部屋を出た。

「おじさん、こんばんわ。」

「こんばんわ、友達の家に行っていたんだって?お母さんにミラの好きなケーキを預けておいたから、明日にでも食べて。」

ネクタイを締めて、お母さんがおじさんのカッターの襟を治すと、帰りかけるおじさんを見送ると言ってミラの母親は家を出て行った。

どうしてお互いにそんなに好きなのに、結婚をしなかったのか判らない。

子供の頃に、近所の人が話しているのを聞いた事があるが、その時はただいつも来ているお金持ちのおじさんとだけしか思っていなかった。

「ゴメンね・・・おじさんね、家に来た時にミラがいなかったから淋しそうにしていたよ。」

お母さんの目がキラキラと輝いている。

お母さんが歩くと匂って来るおじさんの匂い。

私がいない時におじさんと何をしていたの?

そんな事を聞いてみたいけど、聞いてはいけない事。

「お母さん、時々友達の家に行って来てもいい?」

「ご迷惑じゃない?」

「迷惑かなぁ・・・・ミレが、自分の家なら勉強を教えてくれる人は沢山いるよって言っていたから。」

「塾に行きたかったら・・・・」

「塾は行かないよ。行きたいと思わないから。お風呂に入って来るね。」

塾に行きたいと言えば、お母さんはまた自分の食事を節約して塾費を捻出してくれる。

おじさんは、そんなお母さんの事に気が付いているのだろうか。

ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

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