スンスクの春恋(スンスク) 88
ミラは濡れた髪をドライヤーで乾かさないで、いつも母がテレビを見ている居間でタオルを使って湿り気を取っていた。
おじさんが来ると、母の顔は日頃の疲れかが取れた様に生き生きとしていた。
「おじさんが来て、何かいい事でもあった?」
ビクッとして少し焦ったように、母はミラの方を見ないでテレビを観ていた。
「何を変な事を言っているの?話を聞いて貰っただけよ。」
「そう・・・・おじさんに話を聞いて貰うのは、お母さんの日頃のストレスが取れる事みたいね。」
お母さんは、何も言わなかった。
余計な事を聞いてしまったと思って、自分の部屋に行こうと立ち上がった。
「ミラ・・・・おかあさんが誰かと結婚したら・・・あなたも付いてくる?」
「行かない・・」
「どうして?」
「付いて行ったら、お父さんが私達にくれたこの家を人手に渡す事になるでしょ?」
嫌味だと思った。
お母さんは、さっき【再婚】と言わずに【結婚】と言った。
ちゃんと結婚していたのなら、そんな言い方をしないはず。
私はそれっきり何も言わずに自分の部屋に入り、布団を敷いて横になった。
お母さんが結婚の事を口にしたのは今まで一度もなかったし、おじさんがこの家に泊まらずに帰って行く事も今まで一度もなかった。
お母さんが結婚の事を口にしたのが何だったのか判ったのは数日経った時だった。
その日の朝、お母さんは仕事に行く時の洋服ではなく、真新しいスーツを着て綺麗にお化粧をしていた。
「あれ?今日は仕事に行かないの?」
「うん、今日はね・・・人と会う約束をしているから。」
「誰と?」
「それは・・・・・」
そんな話をしている時に、おじさんが玄関の入り口を開けて入って来た。
「おはよう、ミラ。」
「おはよう。おじさん、朝からどうしたの?」
おじさんはお母さんと顔を見合わせて、嬉しそうに見つめ合った。
「ミラのお母さんと、結婚する事にしたんだ。」
「け・・結婚・・・おじさんって家庭があるのじゃないの?」
「独身だよ。一度も結婚をした事はない・・・・・ミラが学校に行く前に話してもいいのか・・・・」
その話を聞くまでは、自分がどういういきさつで生まれたのかはっきりと知らなかった。
聞かなければよかったのかもしれないが、いつかは知らなければいけない事だったのかもしれない。
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