スンスクの春恋(スンスク) 91
静かだな・・・
そうか、今日はお母さんもお父さんも、おばあちゃんを病院に連れて行ったんだ。
スンスクは、中間テスト問題の作成をしていた。
後は、明日学校に行って最終チェックをすれば完成する。
メモリースティックにデータを保存し、パソコンの電源を切った。
部屋からリビングに出ると、フィマンがどこかに出かけるのか、玄関で靴を履いていた。
「出掛けるのか?」
「うん・・スアおばさんの所に行って来る。お姉ちゃんは、図書館に行ってそれからどこかに行くと言っていたよ。」
「あまり遅くまでスアおばさんの所にいたら迷惑になるからね。」
「判った、双子たちが僕と一緒にサッカーをしたいんだって。終わったら、スンギおじさんのお店でお姉ちゃんと夕ご飯を食べて来るから。」
中学に上がって直ぐは少し荒れていたフィマンも、少しずつ落ち付いて来た。
誰もいない家で、独りでコーヒーを飲んでいると、今でもミラを思い出してしまう。
何度か見合いの話を貰うが、一度だけした見合いも結局断ってしまった。
ミラが命を懸けて生んだ子供たちと、ずっと幸せに過ごして行けばそれでいいとあの時は思っていた。
気が付けば、ミレは16歳になりフィマンは13歳になった。
遅かれ早かれ子供たちは親の庇護のもとで過ごしていても、そこから巣立って行く事になる。
スンスク・・・もう一度・・・恋をして・・・・
空耳なのか、ミラの声が静かなリビングに聞こえた。
「幻聴か・・・・ミラ、無理だよ。僕の心は、君がいなくなってから人を好きになる事が出来なくなったから。」
少し開けられた窓の隙間から、春の暖かな風が入って来る。
スンスクは目を閉じてその風を身体で感じていた。
花の香りが、ミラの命の灯が消えた時と同じ。
忘れよう忘れようと思っても忘れる事の出来ない、あの春の日の風の香り。
「ん?」
スンスクは誰かが来たような気配で目を開けた。
ピンポォ~ン・・・・
「はい。」
<あの・・・・ホン・ミラですけど・・・>
インターフォンのモニターに映る、ミレの友達のホン・ミラ。
約束をしていたとは聞いていなかった。
「待っていて、今行くから。」
スンスクは、急いで玄関を出て門に通じる階段を下りて行った。
まるで亡くした最愛の妻のミラが来たような錯覚を感じた。
「どうしたの?ミレは出かけているけど・・・・・」
「先生に、会いに来ました・・・先生に・・・・会いたくて・・・」
ミラはスンスクの顔を見ると、急に大粒の涙を流した。
その顔は、まだスンスクが高校生の時に、毎日見舞いに行った時に見た結婚する前のミラの顔と重なった。
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