スンスクの春恋(スンスク) 94
≪ソ・パルボクククス≫のドアに掛けられた【貸切】の文字は、月に一度のペク家の家族が集まるその日に掛けられる。
付近にある店のパーキングには、さすがペク一族と言われるくらい高級車がずらりと並んでいた。
月に一度のこの日に、まるでショールームのようなこのパーキングで記念写真を撮る人がいる事はよく見る光景。
スンスクは自分の車を停めるスペースに立って、写真を撮っている人に車の窓を開けて声を掛けた。
「すみません、車を停めたいのですけど。」
「あっ!先生。私覚えていますか?」
「勿論、覚えているよ。5年前にパラン高校を卒業した、チョン・スワンだよね。」
「先生と会うために来たの。」
その女性が手招きをすると、すらりとした誠実そうな青年が現れた。
「彼と結婚する事が決まったから、先生に紹介しようと思って。ここに来れば先生に会えるし、学校に行くにはちょっと気恥ずかしくて。」
卒業した生徒が、こうして結婚する報告に来るのは嬉しい事でもあった。
生徒を叱った事も無かったし、特別親しくした事も無かったけど、僕は兄さんたちと同じ道に進まなかった事で、後悔どころか教師と言う仕事がむいていたのだと思った。
「先生も、まだ若いのだから再婚してね。」
と、結婚の報告に来た生徒といつもそう言うのが挨拶になっていた。
スンギの店にはスンハ夫妻とインハとイン、スンリ夫妻と一人娘のソナ、スンミ夫妻は兄弟の中でもしかしたら一番子供が多くもう直ぐ4人の子供の母になる。
身体の弱いスンミが、アフリカに渡って妊娠7ヶ月を報告して来たのには驚いたが、最初の子供を産んでから年子でふたり儲けた。
帰国する前に、何年かぶりに4人目の子供を妊娠したと連絡があった。
それを機会に、国内での仕事をヒョンジャは申請していた。
スンギとマリーも子供のケントとメアリー、作ったばかりの食事を並べていた。
一番下の兄妹のスングとスアは、賑やかな話をしている輪から離れて、ふたりで顔を近づけてタブレットで、久しぶりに一緒にトッコ・ミナの新作を見ていた。
「遅くなりました。」
「来られないかと思ったわ。スンギ、スンスクが来たから、始めようか?」
多分兄妹が揃って集まるのは最後かもしれないと、数日前に父から聞いていた。
元気と言っても高齢になったグミが、長時間椅子に腰かけている事が難しく、あまり食事もとれないから、入院をする事が決まっていた。
「スンスク・・・ちょっと・・・」
こんな風に呼ばれると、大体何を言われるのか見当が付く。
「これ・・・・この間言っていたお見合いの・・・お父さんの後輩・・」
「断ってくれたのではないのですか?」
父の顔を見ても何も聞いていないのか、それともスンスクの気持ちを無視して見合いを進めるのか判らなかった。
「まだ若いのだし・・・ひとりで過ごすのは、一度結婚生活をした男の人には・・・・」
「そんな気持ちは、無いですから。」
スンジョもハニも、スンスクが簡単に見合いをするとは思ってもいないし、時間を掛けてせめて写真でも見てくれればと思っている。
「もう二度と、見合いの話はしないでください。」
「もう!スンスクは頑固なんだから。」
「お父さんとお母さんの息子ですから。楽しい席でお見合いの話をするのは、僕が場の空気を乱す事が嫌いだからですよね?」
流石スンスクは相手の気持ちをすぐに読み取ってしまう。
「お見合いをしないという理由が、好きな人がいるから・・・とかなら別だけど。」
好きな人はミラだけだ。
ミラだけを生涯愛すると、誓ったのだから再婚なんてしない。
“好きな人”?
「それなら言います。好きな人がいるから、お見合いはしません。」
キッパリと言い放ったスンスクの顔を、騒いでいた兄弟たちは揃って見ていた。
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