スンスクの春恋(スンスク) 101
救護室のベッドで休むように先生に言われて横になったものの眠いわけでもなく、ただ先生に告白した事で気が高ぶっているのか涙が止まらなかった。
引率してくれていた教師が、本当は体調が悪くなったら学校まで連れて来てくれたのだけど、救護室の先生が私の様子を見てPMSと言っていた。
それも関係しているかもしれないけど、この一週間の間に知った事実が私を不安定にさせているのかもしれない。
ひんやりとした糊の効いたシーツが、ベッドに横になっていると、気持ちが楽になり・・・・眠くないのに・・・・・疲れていたのかな・・・
最近考える事が多くて・・・・
ミラは、目を閉じると身体が下に引っ張られるように感じると、そのまま何も考える事なく凄く深い眠りに入って行った。
「ホン・ミラさん・・・・担任のペク先生が・・あら・・眠ってしまったわ。」
「眠ってしまったんですね。何だか精神的に不安定みたいだったので、眠って気分が落ち着くといいです。」
「女の子は環境の変化でホルモンバランスが崩れやすいですから・・・」
「先生は帰宅する時間ですよね。僕が見ていますから後は大丈夫です。」
救護室に来る前にスンスクはミラの母親に電話を入れた。
勤め先にいて今日の帰宅は10時過ぎになるから、迎えに行けないから帰られるようになったら一人で帰らせて欲しいとの事だった。
さすがに課外授業でミラに言われた事を、冗談として受け流した事が原因かもしれないとは言えなかった。
『先生の奥さんになりたい。』
『好きになってもいいですか?』
あの時のミラは本気だと判っていた。
判っていたのにそれを『冗談を言って』と受け流す事が出来なかったのは、自分の心にも問題がある。
『妻の名前と同姓同名だから』
あの言葉は自分の中での逃げ道。
娘のミレと同じ年の生徒なのに、この子を見るとミラと出会った頃に感じた、心にサワサワと草が音を立てるような風が吹いていた。
ミラ、僕はいったいどうしたのだろう。
この子の顔を見ていると、胸が苦しくなってくる。
生涯ミラだけを愛し続けると神に誓ったのに、この子を見ていると心が平穏でいられない。
今僕はこの救護室で眠っているミラの頬に触れたいと思ってしまう。
どうかしているよね。
ミラが亡くなってから13年。
一度も女性と交際しないで来たから、おかしくなっているのだろうか。
「う・・・・ん・・・・」
「気が付いた?」
「先生・・・・」
「救護の先生が、慣れない環境で疲れたのじゃないかって言っていたから、君が起きるまで起こさないようにしていたよ。」
「何時・・・何時ですか?」
スンスクは腕時計をミラに見せた。
「7時・・・・家に帰って、夕食の準備をしなければいけないのに・・」
勢いよくベッドに身体を起こしたからなのか、ミラは軽い眩暈でフラッとした。
「お母さんに、連絡してあるから大丈夫だよ。今日は10時過ぎになるから迎えに行けないって・・・・こんな時間だし、一人で帰すのも心配だから、先生が家まで送って行くよ。」
そう・・・ミラが心配だ。
この子が僕の目の前に現れてから、頻繁に聞こえるミラの声で『家まで送ってあげて』と言っている。
教師が、具合の悪くなった生徒を家に送るだけだ。
何も問題ないじゃないか。
スンスクは、自分の中で何か変わって行く事に、それを表に出さないように必死になって抑え込もうとしていた。
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