スンスクの春恋(スンスク) 102
ミラが住んでいる地域は、スンスクが住む地域とは反対の所にある、住宅密集地だ。
住宅街と言っても、古くて小さい家ばかり。
その住宅街の狭い道路に落ちているゴミや空き缶を、スンスクの車のタイヤが上を通って行く。
「先生、ここで・・・・・」
「そうだったね、今日は家に帰ったらゆっくり休んでいなさい。」
「・・・・・・・」
「ホン・ミラ?」
どうしたの?
先生に『送っていただいてありがとう』と、どうして言えないの?
「まだ具合が悪い?」
ミラは首を横に振った。
何か話そうとするが、何をどう話していいのか判らなかった。
「先生・・・・一緒に・・・ご飯を食べてくれませんか?一人で食べるのは淋しい・・・・・」
小さい頃から一人で夕食を食べている事はよくあった。
自分を育てる為に誰の手も借りずに、パートの仕事をしていた母は、ミラが学校に出かけてから夜の10時過ぎまで仕事をしていた。
淋しいと言った事は一度もなかった。
「それは・・・・」
「先生は一人で夕食を食べた事はありますか?先生が住む家の周辺とは違い街灯も少なくて、テレビを点けて食べていても一人だと面白くても笑えないし、外を見れば暗くて・・・・・チョッとした物音でも怖くて・・・・私の為に夜遅くまで仕事をしているお母さんにはそんな事はとても言えなくて・・・・・・仕方がないですよね・・・・私・・・産まれてきてはいけない子供だったから・・・お母さんは・・・・」
ミラはどうしたのだろう。
いつも物静かで落ち着いていた生徒なのに、この間突然家に来た時から何か悩みがあるみたいだ。
自分のそんな悩みを話す相手がいなくて、今日突然僕にあんな事を言ったのかもしれない。
「少しだけだよ・・・一緒にいるのは。ミラが食事を食べ終わるまで傍にいてあげるから。」
「先生も食べて行ってくれないですか?」
「それは出来ないよ。家に帰ったら先生のお母さんが夕食を作って待っていてくれるから。」
「判りました・・・・それでもいいので、少しだけ先生・・・一緒にいてください。」
大丈夫。
何も疾しい気持ちはないのだから。
精神的に何か不安な事があって、僕に傍にいて欲しいのだから。
スンスクは車を降りて、ミラの後に付いて細い路地を入って行った。
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