スンスクの春恋(スンスク) 104
小さな紙きれでも、私にとってはとても大切なお守りにもなる物。
先生はこれをどうして私にくれたのかは判らないけれど、私の気持ちを理解してくれたと思ってもいいよね。
「ただいま・・・」
「あ・・・お母さん、お帰りなさい。」
おじさんとの結婚が決まってからも、お母さんは今までどおり仕事を続けていた。
もう仕事を辞めたらと、私もおじさんも言うけど、人手が足りないからそう言うわけにはいかないと言っていた。
「学校の先生から電話があったけど、大丈夫なの?」
「うん・・・生理前だから、気持ちが不安定になっていたのかもしれない。それよりも、おじさんは今日は来ないの?」
「おじさんは、今日は忙しいから来られないって。ミラ、チャプチェを作ったの?」
「お母さんの分も、作ったよ。」
「ミラの作ったチャプチェは美味しいけど、何だかね・・・熱っぽくて食べられないの。」
最近のお母さんはいつも顔が赤い。
おじさんが泊まって行くと、夜を二人で過ごすから幸せで顔が赤いと思っていたけど、ちょっと違う様な気がする。
「どこか、身体の調子が悪いのとは違う?」
「・・・・・・・疲れただけだと思うから、眠れば大丈夫。」
お母さんの苦労した手は、まだ若いのに年老いたおばさんのように荒れている。
左の薬指には、おじさんから貰った指輪。
おじさんが大学時代にお母さんに贈った指輪だと聞いていた。
「お母さん、私が生まれなかったらおじさんともっと前に結婚していた?」
聞いてはいけない事だと思っている。
私がお母さんのお腹に出来た時の事はきっと忘れたい事だと思うけど、いつも私を大切に育ててくれたのだから、生まれなかったら・・・・とは思わないはず。
「ミラが出来た事で、おじさんとの結婚が今になったわけでもないのよ。おじさんと二人で話し合って、もし結婚をするのならミラが高校生になってから、生い立ちをちゃんと話してから結婚しようって。どんな経緯でミラが生まれたのかは、お母さんたちが話さなくても、あの家に行けば勘のいいミラなら気が付くと思ったの。おじさんのお兄さんは、確かにお母さんに酷い事をしたけど、ミラはおじさんの子供だと思えばいいと二人であなたの寝顔を見ながらそう言っていたの。」
辛かったはずだ。
おじさんもお母さんも人を恨んだりしない人だから、いつも物事をいい方に考えるけど、私はあの人の子供だから、こんな風にマイナスに考えるのかもしれない。
ミラは母が食べなかったチャプチェを、冷蔵庫にしまい、自分の部屋に引き上げて行った。
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