スンスクの春恋(スンスク) 106
「課外授業でのグループ発表は、生徒一人一人がそれを纏める能力があるから1クラスは個人での発表にして・・・2クラスは・・・」
コンコン・・・・
部屋のドアを誰かがノックするのと同時に、ドアの外から携帯の着信音が聞こえたがすぐに切れた。
「スンスク・・起きてる?」
「はい、起きていますよ、お母さん。」
ハニがドアをそっと開けると、携帯をスンスクに渡した。
「リビングに忘れていたでしょ?何度も鳴っていたわよ。」
「すみません、お母さんは眠っていたのですよね。」
「お父さんがまだ起きて書斎で調べ物をしていたから、まだ起きていたわよ。」
スンジョが書斎にいる時は、いつもハニはリビングでスンジョが出て来るまでずっと起きている。
スンジョもまたハニが時々離れのグミの所に行っている時には、戻って来るまでいつも起きて待っている。
どんな時もいつも二人揃っている両親は、スンスクだけじゃなく兄弟たちみんなの憧れだった。
「どこから?」
着信履歴は登録していない番号だが、それが誰の携帯の番号なのかスンスクにはすぐに判った。
「今日、課外授業で出先で体調を崩した生徒がいたからその子だと思う・・・・どうかしたのだろうか・・・」
「具合が悪くなったのかしら・・・もしそうなら、お父さんに言ってパラン大病院の緊急に行ったらいいと思う。」
またすぐに電話が鳴った。
ハニが心配そうに、スンスクが電話で話す事を聞きたかったが、子供の仕事関係の事に口を挟むべきではないと思い、ハニはスンスクが背中を向けるとそのまま部屋を出て行った。
「ミラ?」
<先生・・・遅い時間にごめんなさい・・・・>
震えているミラの声に、スンスクは何か起きた事を直感した。
不安そうに話すミラの顔が目の前にいる様に、きっと真っ青な顔をして電話をしたのだろうと思うと、今すぐに傍に行ってあげたくなる。
「いいよ、まだ起きていたから。どうかしたの?」
<お母さんが・・お母さんが凄く熱くて苦しそうなの・・・・>
「お母さんに声を掛けて、返事はしてくれる?」
<さっきは目を開けてくれたけど、今は・・・・・何も話してくれない・・・おじさんに連絡したくてもおじさんは海外に出張で・・・・先生・・・お母さんが死んだら・・・どうしよう・・・・>
「大丈夫だから・・・口から入らなくてもいいから、スプーンかストローを使ってお母さんに水を飲ませてあげて。一旦電話を切るけど、直ぐにまた連絡する。」
頼る人がいないミラが、どんな気持ちで自分の所に電話を入れて来たのかスンスクにはよく判った。
治らないミラと結婚を決めた時、父に反対されても母に反対されても、世間の人にどんなに酷く言われても、ミラさえ自分と一緒にいてくれれば乗り越えられると思っていた。
最愛の人を亡くす気持は、その人にしか判らない。
ミラの母親の結婚を約束した恋人の実家に連絡をすればいいと他人は言うかもしれないが、生い立ちを知ったらそんな事は出来ないと思うはず。
急いで部屋を出てきたスンスクを見て、ハニは驚いた顔をした。
「どうしたの?」
「緊急で・・・・お父さんに話がしたくて・・・」
静かな夜の時間帯。
勢いよく部屋を飛び出してきたスンスクの足音と、ハニの声が書斎にいるスンジョにも聞こえた。
「どうかしたのか?」
「お父さん、パラン大病院に連絡をしてください。」
「理由は?」
「生徒の母親が、熱が高くて意識が無いみたいなんです。母子家庭の生徒で、私を頼って電話を掛けて来て・・・・」
「判った。スンスクはその生徒に、救急車を呼んでパラン大病院に運んでもらうように言いなさい。その時に、ペク・スンジョからの指示だと救急隊に伝える様に。」
スンスクは、頷くと直ぐにホン・ミラに電話を掛けた。
「先生・・・・判りました・・・先生も・・・病院に来て下さい。心細くて・・・・」
苦しんでいる母を見ながら、ミラは怖くて自分がどんな顔をして泣いているのかさえ分からなかった。
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