スンスクの春恋(スンスク) 109
「スンスク、お湯が入ったからミレの友達をバスルームに案内してあげて。」
「すみません、お母さん・・・・遅い時間に手間を掛けさせて。」
「いいの。ペク家はね、人が困っている時にはこうしてあげる事が普通なの。おばあちゃんとおじいちゃんがそういう人だから、何も気にしなくてもいいわ・・・・明日の朝はミラの隣の席に朝食を用意しておくわね。」
スンスクは、母ハニが遅い時間にミラを連れて来た事に、嫌な顔一つしないでバスタブに湯を張り、直ぐに入れるようにしてくれていた事に感謝をしていた。
「ミラ・・・・」
客間のドアの外からスンスクが声を掛けると、不安そうな顔をしたミラが出て来た。
「先生・・・・おじさんが家に電話をしたみたいで、明日から暫くおじさんの家に行く事になりました。」
行くのは嫌なのだろうか、何か僕に言って欲しそうな顔をしていた。
でも、何を言ったらいいのか、どうしてあげたらいいのか判らないが、僕は教師でミラは生徒でミレの友達。
「行きたくないの?」
コクンと頷くミラの気持ちは判っている。
あの家に行けば、自分の心の傷になっている生い立ちを思い出してしまう。
「明日、また考えよう。今日はお母さんの事があって気が張っているけど、温かい湯に浸かってリラックスをすれば眠りに付けるから。バスルームはこっちだよ。」
だまって僕の後に付いてくるミラの気配が、背中から熱く伝わって来る。
真っ直ぐ伝わって来るのは、昼間僕に言ったあの言葉なのかもしれない。
「先生・・・・」
「ん?」
「家の人に気が疲れない様に・・・・聞くだけでいいです・・・」
「・・・・・」
「私が、高校を卒業をしたら・・・・・奥さんにしてください。私の生い立ちを先生が汚らわしいと思ったら・・・・・・諦めます・・・一生・・先生を想って生きて行きますから・・」
ミラはそこがバスルームと判ったのか、ドアを開けて入って行った。
スンスクは、ミラの真っ直ぐな気持ちが嬉しいと思うのはいいのだろうかと心の中で呟いた。
「スンジョ君・・・眠った?」
「いや・・・・」
「さっきスンスクが連れて来たミレの友達・・・・ミラと似ているね。」
「そうだな・・・」
「名前もホン・ミラだって・・・二人が結婚したら・・・」
「お前は余計な事を考えなくていいから、もう夜が遅いから寝た方がいい。」
スンジョもなんとなくハニと同じ事を考えていた。
考えていたが、他人の気持ちは他人がどうこうするわけにいかない事も判っているが、スンスクには他の子供たちと同じように幸せな結婚生活を一度でも送って欲しいと思っていた。
病気を知っていて結婚したスンスクは、ミラが生きていた時は幸せに見えても、最愛の人の命の期限を知っていたから、今度はそんな思いを知らずに幸せになって欲しい。
0コメント