あなたに逢いたくて 16

ユン会長は、オレとヘラが知り合いだと判ると、気を遣わなくていいようにと、食事が終わると二人だけにしてくれた、
オレはヘラの勝ち誇ったような笑顔を見た時に、最近元気のないハニの不安そうな顔が重なって見えた。
「何だか不思議な感じがするわ。」
ヘラのいつも自信に満ちた笑顔が以前はなんとも思わなかったが、今は落ち着くどころか煩わしく感じた。
「おじい様からしつこい位にお見合いの話を勧められても、今まで相手の事を聞く前に全部を断ってきたの。だって、私のプライドがお見合いなんて自分で選ぶことの出来ない結婚話が嫌だったの。大抵の男性(ひと)は、私に何も言うことも出来ないし、頼れないじゃない?私が何か聞いても、おどおどして応えられないし、私を引っ張っていく能力も無いでしょ?お祖父様から、<取引先の社長の自慢の息子は完璧な男だ。この男なら絶対にヘラは気に入る>そう言われて、今までと違ってとても熱心だから、話だけでも聞いてあげようと思って、私と一緒のパラン大学の学生で玩具メーカーの御曹司だと聞いて、もしかしたら・・・って思ったの。」

オレが、完璧な男?オレは、完璧な男じゃない。

結婚を約束していた好きな女を、いくら親の会社のためとはいえ、心より金を選ぶために、簡単に手放せる男は最低だ。
ガラス越しの陽射しに当たるヘラの自信たっぷりな笑顔の向こうに、ハニの今にも倒れそうで不安そうにオレを見るハニの顔が見える。
オレの些細な表情さえも敏感に感じ、不安そうな笑顔でいつも見ていたハニの顔が、オレが結婚できないと言った時に見た生気を失ったようなハニの顔に変わった。
「・・・・・・・・ねえ・・・・・どうしたの?」
ヘラの声にハッとした。

オレらしくなかった、人の話を殆ど聞いていないなんて。
「ゴメン・・・・・・・」
「一年の時のテニス部の合宿で告白したけど、ハニとギョンス先輩の邪魔が入って、返事はまだ聞いていないわね・・・・・・ふふ・・でもいいわぁ、結婚するだから好きかどうかなんて、もう必要ないものね。」
スンジョは苦笑いしてコーヒーを口に含んだ。

味も香りもしないコーヒーよりも、ハニの美味しいコーヒーが無性に飲みたい。
「でも、気分は良くないわ。愛情も無くて会社繋がりで結婚するなんて、お金じゃなく私を見て結婚してほしいわ・・・・・どう?結婚は大学を出てからになると思うけど、一つづつお互いを知って行かない?」
「ああ・・・・・そうだね・・・・」

一つづつお互いを知って行く・・・・

見合いをした初日だから、いくらよく知っている間柄でも、まだそんな付き合いはする気にもなれない。

遠まわしでも、ヘラが言っている意味は、結婚を前提に進む見合いだから、心じゃない部分を指してもいる。
ヘラとの過ごす時間はあんなに自分が好んでいた静かな時間がこんなにつまらない時間だったのか。

ハニのコロコロ変わる表情を、オレがからか会、ハニが拗ねて怒り、何でもない事が楽しいと言うハニの笑い声が溢れている時間が心地よく感じた。

ヘラと別れて家に着いたのは、夕食も終わり片付けも済んでいる9時だった。
毎日会社で遅くまで仕事をしていたから、平日と比べて今日は割と早い時間に帰宅をした。
鍵のしまっていない玄関のドアを開けると、ちょうどハニが眠る為に施錠の確認をしようと二階から降りてきた。

「お・・・・・・お帰りスンジョ君・・・・・」
「ああ・・・・・・・・」
気まずい空気の中、何かお互いに聞きたいことがあるのに言葉にするのが怖かった。
「コーヒー・・・・・・飲む?」

「淹れてくれるか?」

ハニの淹れたコーヒーを飲みながら、ヘラとのことをどう言おうか迷っていた。
「お見合い・・・・・・・・どうだった?」
「ヘラ・・・・・・だった」
一言その名前を言った時、多分ハニは呼吸を止め涙を流すのも我慢しようとしていたのだろう、震える声で小さくて耳を澄まさないと聞こえないくらいの声を出した。
「良かったね、知らない人じゃなくて。ヘラならスンジョ君、私に話すみたいに言葉を考えて話さなくてもいいから気持ちが楽だよね。」
楽なはずがないし、ハニに話すのに言葉を考えて話したことはない。

いつも自分の心のままに、ハニと話していた。

ハニとの笑いが溢れる、自分が素になれる生活に慣れたオレには、大きな声を出して笑う事のないつまらないこれからの人生が淋しく感じた。

「ハニも、早くいい男見つけるんだぞ。オレみたいな薄情で冷たい男じゃなく、愛よりも金を選ばないでハニの事を大切に愛してくれる男を選べよ。」
「そうだね・・・そうする・・・・・ミナもジュリもそう言っていた・・・明日・・・・学校があるからもう寝るね。カップはシンクに置いておいて・・お休み・・・・・」
「お休み・・・・・」
ハニが階段を上がっていく後姿が儚くて、抱きしめようと手を出して届きそうなのに、手を伸ばす勇気がなかった。
手を伸ばせば、自分で決心したことが崩れてしまいそうだった。
バタンとハニの部屋のドアが閉まる音が、静かな夜の家の中に響いた。
耳を澄まさなくても聞こえるハニの泣き声が聞こえてくるようだった。




ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

0コメント

  • 1000 / 1000