あなたに逢いたくて 17
ヘラだった・・・・・
完璧なスンジョ君に完璧なヘラ・・・・
結婚を前提のお見合いをしたのだから、スンジョ君の言う通り私に合う男性(ひと)を見つけないとダメだと判っている。
でも、私には無理。
今まで、スンジョ君しか見えなかったし、見て来なかったのだから。
これからもスンジョ君以外の男性(ひと)は、絶対に考えれない。
ハニは泣こうとしても涙が出て来ない。
声を挙げて泣きたくても、鳴き声を上げる元気も力も無い。
ショックであまり泣き過ぎたから、涙も枯れて泣くことも出来なくなった。
誰かが、ハニの部屋をノックした。
「ハニ・・・・ハニ、パパだけど起きているか?」
「うん・・・・」
ギドンが、遅い時間でウンジョやスンジョが眠っていて静まり返っているのを気にしながらハニの部屋に入って来た。
「身体の具合はどうだ?」
青い顔をしたハニは、静かに首を横に振った。
「今日、スンジョ君・・・・お見合いしたの・・・」
「そうか・・・・」
仕事が忙しく毎晩帰りが遅いから、真剣に娘と向き合って真面目に話をしたのはいつだっただろうか。
若い時に愛妻を亡くし、妻のたった一人の忘れ形見の娘は、何時の間にか妻に似た面差しに成長していた。
「ハニや、パパの田舎のばあちゃんの所に行かないか?」
「学校は・・・・・」
「転入すればいい。スンジョ君が結婚が決まりそうなら、ソウルにいるのは辛いだろう。」
ハニは黙っていた。
スンジョに会えないのは辛いが、ヘラと並んでいるのを見るのはもっと辛い。
「田舎の大学は、のんびりしている。それにばあちゃんが、若いときに痛めた古傷が痛くて辛いと言っていたし、随分と会っていないだろ。」
何も答えないハニにギドンは、一緒に泣いてやりたかったが出来る限り笑顔を作り優しく言った。
「ハニ、お前は笑顔が一番だ。その笑顔がないと、会社の為にハニとの結婚を諦めたスンジョ君だって辛くなるだろ。何時の時代にか、もしまた出逢う事があったら、その時は離れないでいればいい。」
ハニはコクリと頷いた。
「パパ、おばあちゃんの所に行く・・・・・・」
ギドンはハニの頭を小さな子供にするように優しく微笑み頭をなぜた。
母親がいれば、傷ついた娘をもっと優しい言葉を掛けて温かく労わることが出来たのに。父親としてできることは、この場から逃がしてやりたいということだけだった。
スンジョはハニがギドンとこの家を出て、ハニの祖母の所に行くことを知らない。
ヘラとお見合いしたことで、安心した物の何故だか胸の痛みが日々大きくなっていた。
以前なら、自分と似たヘラといるのが楽だと思っていたのに、幼いウンジョが話した言葉に自分の中に残っていたハニへの罪悪感が動いた。
「お兄ちゃん、お見合い今日だったの?」
布団から顔を少し出して聞く弟の目は、兄の気持ちを知って攻めているようにも見えてスンジョに冷たく感じられた。
「聞いたのか?」
「・・・・・うん・・・・・・・ハニがご飯をまた食べなかった・・・・・・胃の調子が悪くて食べられないって・・・・・・・吐くものが無くなって・・・・・・泣いてた。」
「そうか・・・・・」
後悔した、あの時お見合いは出来ないと言えばよかった。
ハニが食べられないほど傷ついていることが、余計に自分の浅はかな考えが悔やまれる。
社員の事とハニとオレにはどちらが大切か・・・・・・・・
親父が倒れたのはオレの一言だった。
その一言が親父を傷つけたのに、また同じ一言で二人の女性を傷つけた。
生涯を掛けて守りたいと思っていた、大切なハニを傷つけた。
「前に家に来た綺麗なお姉さんを覚えてるか?あの人だよ・・・・・ウンジョも気に入っていただろ。お似合いだって・・・・・・・・・きっとこれでよかったんだ、きっとよくなるよ・・・・・・」
最後の言葉を自分に言い聞かせるように言って部屋を出た。
ウンジョは兄の背中に小さく言った。
「お兄ちゃんが変になっちゃった・・・・・・・小学生の僕でもお兄ちゃんが間違っていること判るよ。僕がもっと大きかったら、助けることが出来たのに・・・・・・・・」
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