あなたに逢いたくて 18
ギドンは、スチャンの病室の前でノックを躊躇っていた。
病室のドアの隙間から聞こえる話し声の内容は、息子が結婚を約束をした娘を捨てて、会社の為に見合いをした事も知らないで、会社に自分の大利として出社している息子の話をしていた。
病室の中から、スチャンとグミの話し声が聞こえたかと思うとドアが開いた。
「あらっ!」
「スチャンの見舞いに来たのですが・・・」
「入ってくださいな、主人も退屈していたのですよ。パパ~、ギドンさんがいらしたわよ。」
グミが開けたドアの向こうのスチャンは、発作が落ち着いたのかわりと元気そうだった。
「ギドン、入ってくれ。ママ、ギドンに何か出してやってくれないか?」
「あっ!奥さんどうかお構い無く・・・・」
息子がした事などまだ何も知らない様子のスチャンに、ギドンは身体に負担を掛けない様に何と言おうか考えていた。
「具合の方はどうだ?」
「お陰様で、落ち着いたよ。スンジョも、この際だからしっかりと検査しろと言われてな。」
スンジョ君は、何処までスチャンに話しているんだろうか?
「そうだよ、お前は働きすぎだぞ。休みの日も接待で家にいないし、帰宅は遅いし・・奥さんを悲しませるなよ。」
「お前も同じだろう。一人娘のハニちゃんが、嫁ぐまでは身体に気を付けて頑張らないとな。」
ギドンは、チラッとグミの方を見るとまだ何も知らないようでニコニコと笑っていた。
「パパァ~、退院したらお祝いがふたつ有るのよ。」
「お祝いがふたつ?何かいいことでもあるのかね?」
「ヒ・ミ・ツよ!ねぇ~ギドンさん。」
ギドンは何も言えなかった。
ただ笑うだけで、親友の息子の決断に可愛い娘が深く傷ついていることを。
「スンジョも、会社に行って頑張っているし、多額融資先の会長にどうも随分と気に入られたみたいだ。ワシが倒れた方が良かったみたいだな。」
「まぁ~、パパったら!こっちの気持ちを考えて欲しいわ。ねぇギドンさん?」
スチャンとグミの笑いに何とかギドンは合わせようと渇いた笑いをした。
「スチャン、こんな状況で言いにくいのだけど、その・・・わしら親子は随分と長い間・・・・充分過ぎるくらい世話になって申し訳ない、そろそろ家を出ようと思う。」
「ギドン」
「ギドンさん?」
「ワシの店も有りがたいことに健康志向が高まってきたおかげで繁盛して、仕込みやらなんやらで、スチャンの家から通うには大変になってきた、田舎のお袋が最近年のせいか古傷が痛くてハニに手伝いに来て欲しいと行ってきたんだ。」
「おばさんには世話になったなぁー。会いたいなぁ。ママ、おばさんのキムチの味は、忘れられないんだよ。あれが有るとおかずがいらない。」
その時、誰かがノックをした。
「それじゃあ、店の準備があるから帰るな。」
「引っ越しの話は考え直してくれんかな。もう少しいてほしいな、ハニちゃんがいると家の中が明るくなるんだよ。また、来てくれよ。」
ギドンは、手を挙げて病室を出た。
すれ違い病室に入って行くスーツをビシッと着こなした男性と会釈をし、ドアを締めた。
病室の中から、スチャンがその人に挨拶していたわりの言葉を掛けているのが聞こえた。
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