スンスクの春恋(スンスク) 115
「?」
何の音?
「どうかしたのか?」
「う・・ん・・・玄関のドアが開いたと思って暫くしたらガレージから車が出て行ったみたいな音がして・・・・」
「ミレやフィマンではないから心配ない。」
「スンジョ君、誰が出て行ったのか知っていたの?」
「親だからな・・・スンスクだって、オレたちに言えない事もあるだろう。未成年でもないし、アイツはスンリやスンギやスングのように、親に心配を掛けるやつじゃないから大丈夫だ。」
一度気になり出したら気になって仕方がないハニも、スンジョがそう言えばそれに従うしかない。
「心配だけど、スンジョ君がそう言うのなら・・・・・でも、スンジョ君も親に心配かけない人だったけど、心配を掛けたじゃない・・・」
「心配かけたから、お前と結婚が出来たんじゃないか。いいからもう寝ろ!」
「そうね・・・・それを聞いたら何だか眠れそう・・・・」
もう自分たちは子供の事を気にしなくてもいい年齢で、自分たちの残っている人生を楽しむ事だけ考えればいいのに、いつまで経ってもハニは学生時代や親になったばかりの頃と変わらず、何も疑問を持たないでスンジョがそう言えばそうだと、簡単に納得してしまうところは、スンジョにとってのツボなのかもしれない。
「ミラ・・・ミラ・・・先生だ・・・・」
「先生?・・・待っててください、直ぐに開けます。」
いけないと思っていても、ミラは一人でいる事が不安でスンスクにメールをしてしまい、スンスクは来てはいけないと思っていても、まるで何かに導かれる様に見らの家に来てしまった。
「先生・・・・」
ミラの面白いくらいの重装備に、スンスクは吹き出したいのを堪えて、ニッコリと笑った。
「家の中に入れてくれるかな?ここで立っていたら、近所の人に不審に思われる。」
頷いてミラはスンスクを家の中に入れると、それまで緊張していたのが緩んで床の上にぺたんと座り込んだ。
「大丈夫?」
「はい・・・・母が仕事で明け方帰って来る時もあるから慣れていたけど、今日に限って怖くて・・・・」
「いいよ、ミラはミレの大切な友達で、先生の大事な生徒だから。」
「そうですね・・・・」
ミラはスンスクの言った言葉に寂しさを感じたが、スンスクへの特別な思いがあるのは自分なのだから仕方がないと思った。
「先生、車はどこに停めたのですか?先生の車をこの辺に停めたら、学校の誰かに見つかってしまうかもしれないのに。」
「大通りのパーキング。」
「大通りの?結構遠いですよ。」
「走って来たよ。学生時代は太っていたから、足は遅いと思ったけど、両親の子供だと今になって知ったよ。あの時こんなに足が速かったら、オリンピックの選手になっていたかも。」
スンスクらしくない言葉に、ミラは驚いてクスクスと笑いだした。
「おかしいかな?」
「うん・・だって、学校の先生は、そんな事を言ったりしないもの。」
「どうしてだろう・・・人にこんな風に話したのも初めてだよ。」
「亡くなった奥さんともそんな風に話したのですよね。」
「いや・・・・人生で初めてかもしれない。冗談なんて妻と暮らしていた時は言う余裕はなかった。高校を出てすぐに結婚したし、ずっと妻は治らない病気だったから、学校と家と病院ばかりで・・・・ミレが産まれてからは、妻の病気も悪くなる一方だったし、フィマンが産まれる時は・・・妻の残り少ない人生の・・・・・」
誰にもあの時の気持ちは話した事がなかった。
結婚に後悔をした事も、自分たちの子供の事も悔いた事はなかったが、心の中の不安も誰にも話した事はなかった。
それなのに、目の前にいる自分の娘と同じ年の子供に話してしまいたいと思うのが不思議だった。
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