スンスクの春恋(スンスク) 116
「ミレの次にもう一人子供が欲しいと言った時は大変だった。君はまだ若いから判らないけど、妊娠をすると女性の身体・・特に妻は病気を患っていたから、それによって進行するスピードも速くなる可能性があった。」
あの時を思い出すのは今も辛い。
僕はミラが命を掛けてまで子供を産んで欲しくなかった。
一日でも一時間でも・・・数秒でもいいから長く生きていて欲しかった。
初恋だってした事がなかったし、初めて愛した女性だった。
両親や兄妹とも似ていなくて、小さい頃から兄や姉たちのように自分に自信がなくて、勉強をしているとそんな自信の無さが消えていた。
父が母を一生守って行く大切な人と言う目で見て、母が父を少女のような思いで見ている目を幼い頃から見ていたから、自分もそんな人と恋愛をしたいと思っていた。
背もそれほど高くないし、どちらかと言うと今よりも太っていたから、そんな夢のような事をいつしか諦めていた。
ミラは・・・・母に似ていた。
国語の教員になると言うのに、国語力が高校生よりも低くて、それなのにバカみたいに一生懸命に休憩の時に授業のシュミレーションをしていた。
陰では涙を流しているのに、教育実習のクラスの生徒の前ではニコニコと笑って、自分の間違いを指摘すると子供みたいに笑う。
母が好きだったから、ミラを好きになったのか。
そうではない。
ミラが僕にとって一生守って行く大切な人だと気がついたから。
そして、今目の前で僕の話に涙を浮かべて聞いているホン・ミラも、僕が傍にいて一生守って行く人のような気がする。
「先生・・・・」
「ゴメン・・・・」
無意識だった。
無意識に生徒のミラにキスをしていた。
意識のどこかで、目の前にいるミラが僕の妻のミラに見えた。
「先生、謝らないで・・・私は本当に先生が好き。先生にだけ、私の生い立ちを話したの。ここに一人でいるのが怖くてメールをしたのは本当。昼間、私の父親が学校に迎えに来たの。ミレにだけは知られたくて・・ミレは先生の子供だからではなくて、私の大切な友達だから嫌われたくない。」
「ミレは君を嫌ったりするような娘じゃないよ。先生だって、君の生い立ちがどうであっても、そんな事は気にしていない。君はとても綺麗な心を持っている子だから。」
ミラしかいないこの家に来てはいけなかった。
咄嗟に教えた自分のアドレスを、後悔していたのは事実だ。
自分は教師でミラは教え子で、まだ彼女は16歳。
この先の未来があるのに、自分は長い間存在しない妻を思い続けていたから、どこかでおかしくなったのだろうか?
「明るくなるまでここで見ていてあげるから、もう眠りなさい。」
「先生も眠らないと。」
「先生はここで座ったままで眠るから。」
もうこれ以上は、ミラの身体に触れてはいけない。
自分の子供と同じ歳の、まだ本当の恋も知らないミラを傷つけるような事はしてはいけない。
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